鮮やかに咲く



俺があの子にできることなんて、無いと思ってた。


花が綻ぶみたいに柔らかく笑って、たくさんの仲間に囲まれて輝いていて、いつだって透き通るみたいに優しい音をさせている、あの子に。俺みたいな弱くてどうしようもない男が、何を出来ようか、と。

だけど、あの子…なまえちゃんの誕生日がついこないだだったと、風の噂で聞き付けて。無駄に良い耳を持ちながらなぜ今まで知らなかったんだ、と自分を責める気持ちと、遅れたってどうにか祝いたい、生まれてきてくれたことを感謝したい、そんな気持ちとが、俺の中に芽吹いた。

何を贈ろうか決められないまま、どぎまぎしながら入った街の雑貨屋。そこで、美しく咲き誇る、一輪の黄色い花を見つけた。生花じゃなくて、小さな櫛がついた花の髪飾りだけど。でもその明るさが、それから凛とした美しさが、俺の大好きな眩しい笑顔と重なって。これだ、なんて思った。



***



「…あ、あの!!ちょっと、今いい?」
「あ!善逸!どうしたの?」


幸運にも、その後すぐに会うことができたなまえちゃん。そのまん丸い瞳で俺を捉えてから、ころん、と音を弾ませた。


「…遅れちゃったんだけど、さあ! あの、どうしても、なまえちゃんに伝えたくて」
「う、うん? なにを?」


首を傾げるなまえちゃんに、包んでもらったばかりのそれを差し出す。「私に?」と戸惑う彼女の、確かに嬉しそうな音に背中を押されて。何度か頷きながら、声を絞り出した。


「あの!…なまえちゃん、お誕生日、おめでとう…!」
「えっ…! 善逸、ありがとう!」


ちょっと声が裏返ったけど、ちゃんと言えた。密かに胸を撫で下ろす俺の手から、なまえちゃんの小さな手に包みが渡って、りぼんが解かれて行く。
ああ、でも。気に入ってもらえなかったらどうしよう。そわそわと落ち着きなく佇む俺が不安を吐露する間もなく、わ、となまえちゃんは明るい声をあげた。


「素敵! とっても素敵! ありがとう、善逸」


その一輪を手のひらに乗せて笑うなまえちゃんは、やっぱり。太陽の色をたくさん吸い込んだ、花のかんばせ、そのものだった。

普段刀を握っているなんて信じられない程に、細くてきれいなその指で、小さな太陽を摘み上げて。それから、何度か俺の顔とそれとの間で視線を往復させてから、ふふ、と笑った。


「ど、どうしたの?」
「…このお花、善逸みたいだねえ」
「…え、」
「明るくて元気をたくさん貰える、善逸の笑顔みたいだよ」


そう言ってから、黒く艶めく髪に、ゆっくりと黄色い花を咲かせる。髪と隊服の深い深い黒にその黄色が映えて、空から燦々と照りつける太陽なんかより、よっぽど眩しかった。


「…ねえ、似合ってる?」


俺がこの子にできることなんて、無いと思ってた。

どくどく、自分の心音が煩くてしょうがない。叫び出したい気持ちを抑えながら、精一杯の笑顔で「すっごく似合ってるよ」なんて伝えたら、なまえちゃんの心臓もひとつ大きな音を立てて、笑顔がほんのり紅く染まったから。
案外そうでもないのかもしれない、なんて思えて、ああ、もっともっと、好きになってしまいそうだ。



20200629




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