こんな夜に君は今何思うの



※現パロ



そろそろ寝ようか、ああでも声が聞きたいなぁ、もやもやと考えを巡らせる夜。布団に潜り込んだ私の耳に、ぴこん、とメッセージの到着を知らせる音が数回届いた。

『今家ついたよ』『さっき後輩の女の子を送ってきたんだけど』『多分あの子、俺に気があるんだよね』

暗い部屋で明るい画面を見つめながら、思わずへの字口になる。それを隠しもせずに、何百キロも離れたところから届いたそれを何度か読み返して、ひとりぼっちで指を動かす。
『そっか、お疲れ様』と打ち返してから『善逸は下心が笑い方にモロに出るの。気をつけなね』と送ってやると、わりあいすぐに既読マークがついた。
なんだか、悔しくて、寂しくて。私が声を聞きたいと思っていた間、奴は他の女の子の横で鼻の下を伸ばして、うぃひひ、なんて下心が滲んだ笑い方をしていたんだろうか。
私も悪戯してやろうと、続けて指を動かす。

『ちなみに私は今日告白されたの』

ぱっ、と画面が切り替わって、ぶるぶると携帯が震え出して。それが電話だと気付いたのは、数秒後だった。慌てて潜り込んでいた布団を取っ払って、応答ボタンを押して耳に当てると、こちらがもしもしなんて言う前に「誰に!?どんなやつ!?」と、耳がきぃんとするような声が響いてきて。聞きたかった声のはずなのに、思わず携帯から距離をとってしまった。

「…すっごいイケメンだよ」
「…へぇ」
「善逸こそ、どんな子送ってきたの?」
「…すっげえ、可愛い子だけど」
「ふぅん」
気まずい、沈黙が流れる。ちょっといくらなんでも、悪戯が過ぎたかな、なんて。反省しながら「でも」と口を開くと、タイミングも言葉も、綺麗すぎるほどに、善逸の発した声と被った。

「…でも、なに?」
「お前こそ、なに」
「善逸から言いなよ」
「やだね。お前の方が先に言ったし」
「ちがうよ、善逸が先だったよ!」

また、しんとした沈黙。広いとは言えない部屋にポツンと一人座る時間は、すごく、寂しい。
ふと顔を上げると、暗闇に慣れた目が、ぼんやり見慣れた部屋の中を映す。うっすら見えた写真立ての中には、顔を寄せ合って笑う善逸と私がいる。はっきり見えなくても、何度だって見つめたから、覚えてる。
その二人を隔てるのは、たった5センチの距離。今の何分の一なんだろうか、すぐにはわからないけど。ただ一つ確かなのは、その距離が、堪らなく恋しいということ。

思わず込み上げてきた涙を呑み込むと、善逸の大きな大きなため息が聞こえて、「なに」と低い声で応えてしまった。
ねえ、可愛くないよね、私。本当はわかってるよ、私に妬いてもらいたいことぐらい。でも素直に言うのも恥ずかしくて、ちょうど今日告白されたのは本当だけど、仕返しみたいなことして。挙句、勝手に腹立てて喧嘩腰で喋ってさ。「すっげえかわいい子」はきっと、素直で純粋で女の子らしいんだろうな、私と違って。

「続き、聞いて」
「…いいよ、言わなくて」
「お前の方がかわいいよ。ずっとずっと」
ぽろり、勝手に、一粒涙がこぼれた。あふれた音か、流れる音か、それが落ちた音か、わからないけど。確かに聴き取ったらしい善逸が、「泣くなよ」なんて、とびきり優しい声で言うから、また涙の線が走った。

「ごめん意地悪して。泣かせたかったんじゃないよ」
「…ちがう」

ねえ、寂しいよ、善逸。
でもそんなことを口にしたら、あの日の指切りも、今まで我慢してきたことも、全部意味がなくなってしまうんじゃないか、って。

「ね。ビデオ通話にしよ」
「なん、で」
「顔見て話したい。だめ?」

かわいいかわいいお前の顔、なんて、ばかみたいなことを、すっごく真面目な声で言うから。涙を拭ってから、ビデオ通話のボタンを押した。
すぐに、明るい画面に映し出される金色。蛍光灯に照らされる琥珀色が、私を見つめる。

「ばか、お前、真っ暗じゃん。電気つけろよ」
「ん、もうちょっと、したらね」
「やーだ。つけて、すぐ」

拗ねたみたいな口調と、尖った口がかわいくて、なぜだかまた涙が出そうになった。
ベッドから立ち上がって、部屋の入り口にあるスイッチを目指す。それに手を当ててから、押し込む前に、小さな小さな声で呟いた。

「善逸の方がイケメンだよ。ずっとずっと、ね」





20200630
title: radwimps 「遠恋」




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