68.悔やむ
事の発端はハンジの一言だった。
いつもエルヴィンにからかわれているなまえが、彼について愚痴を零した時、
「そんなに鼻を明かしたいなら寝込みでも襲えば?」
ハンジとしては冗談半分、どうでもいい気持ち半分に答えただけだったのだが、なまえの目を輝かせるには十分な材料だったらしい。
深夜見廻り番以外が寝静まってから、彼女は幹部兵舎の最奥の部屋に忍び込む。
疲労が溜まっているのか、ベッドに横たわる男はぴくりとも目を覚ますことは無く、幸い規則的に胸が上下している。
なまえはあらかじめ用意していたロープを手に、枕元へ手を伸ばす。
そろりと布団をめくり、現れた手首をしっかり縛る。
男が起きる気配は無い。
一人優越感と高揚感に浸り、その両わき腹に手を伸ばし軽く擽りかけたところで、ぱちりと真っ青な目がなまえを捉えた。
「それで?私を縛ってどうするつもりだったんだ」
「く、くすぐろうと…」
エルヴィンは淡い期待を裏切られた気持ちでため息をつく。
彼女に色気を求めた自分が愚かだった。
「………全く、君らしいと言えば君らしいが。」
エルヴィンは難なく解いた麻縄を彼女の前でピシリと張ってみせた。
今しがた狸寝入りから目覚めた瞳は怪しく光る。
「効果的な捕縛術を教えてあげよう」
邪悪な微笑みに、なまえは己の軽はずみな行動を心底後悔した。
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