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 67.縋る

夜のカフェは、酒や珈琲を飲み、煙草を嗜むだけの場所ではない。

二階には男と女の為の部屋があるのだ。

「お客さん、この子どうです?新人なんですけどね、なかなか器量良しでしょう?」

エルヴィンは店主に紹介されたウエイトレスをまじまじと観察した。
まだあどけなさが残る顔は緊張に強張り、質素な服の裾を固く握りしめている。

「ああ…そうだね、二階を利用していいかな」

「もちろんです!」

喜ぶ店主の表情と彼の返答に少女の顔は一層蒼白になった。
微かに震える肩を抱かれ、一歩ずつ階段を上りながらとうとうこの日が来たと、かたく目を瞑る。

促されるまま部屋に入ると、客は静かにドアを閉め彼女に優しく語りかけた。

「名前を聞いても?」

「なまえ…です」

おずおずと見上げれば穏やかな双眼と目が合う。

「なまえ、君こういうことは初めてだろう?」

暗がりの中でも月明かりを受け光る瞳に、なまえは立ちすくんだ。

「は、はい」

「怖がらなくていい。金なら払うからここで休んでいなさい」

男はクリップでまとめられた札を戸惑う少女に握らせると、窓辺に腰掛け紳士的な外見に似合わず酒をボトルのまま煽った。

「どうして…」

「君があまりにも震えているものだから、ついね」

苦笑する横顔に彼女は反射的に口走っていた。

「お、お客様、私を抱いてくれませんか」

驚きの形に見開かれた瞳は次の言葉を待つ。

両親は流行病で死んだ。
遺された妹は目の前で巨人に食われた。
この狭い壁の中で、頼るものは無い。
信じられるのは自分だけ。

「私は、ここでしか生きていく術がないんです。だったらせめて…今夜は貴方がいい」

沈黙が夜を抱く。

「……おいで」

ぽつりと放られた声に、一歩駆け出して縋った。




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