04

牡丹が散り始めた。

僕の命も、散り始めた。

僕の手に握られた、一通の、手紙。

「綾部さ〜ん…?」

看護婦さんがそろりと僕の病室に入ってくる。

「はい」

顔は窓の外に向けたまま、返事をする。
今、僕が会いたいのはただ一人。

「おきてらっしゃいましたか…」

そんな看護婦さんの言葉になんて返事をしている余裕なんてない。

そのときはらりとまたひとつ、
牡丹の花弁が散った。





「喜八郎!」

もうすっかりお馴染みの声。

「兵助さん!いいんですか?毎日毎日学校抜け出してきて。」
「いやぁ〜それが良くもないんだよねぇ」

はははと笑いながら言う。

「それって…」
「まぁまぁ。俺にとっては学校よりも喜八郎に会う方が大事なの。」
「うっ…それは嬉しいんですけど…。兵助さんにはお国のために何も出来ない僕の分までがんばってもらいたいんです。」

その言葉に少し目を細める兵助さん。

「わかってるよ。喜八郎の分まで、お国に尽くすよ。」

泣きそうな顔をして、僕の頭を撫でる。
その顔を見るのが、なんだか切なくて目を背ける。

「喜八郎」
「はい、ぅんっ」

不意打ちで接吻をされる。触れるだけの、短い、それでも甘い。
離れた後の兵助さんの顔がなんだか憎らしくて、ちょっと拗ねてみる。

「もうっ…その顔……。ズルい。」
「はは、そうか?」
「そうです。ズルいです!」
「ははは、拗ねるなよ。」
「拗ねてません!」

そんなやりとりが、楽しくて。
いつまでも続けばいいと思った。


でも、そんな願いは許されることはなかった。




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