珊瑚色
「ねぇ、俺のことまだ好き?」
静寂の中に、俺の声はひどく響いた。
そんなに大きな声で言ったわけでもないのに、彼女の耳にはクリアに届いたようで、涙を浮かべた瞳と目が合う。
口を開こうとした彼女の目からそれは、静かに溢れるのだった。



彼女…名前が俺にずっと好意を向けてくれていることは、大分前から気付いていた。
というか、俺だけではなく周囲の人間皆が気付いていた。それくらいわかりやすかった。
俺と目が合えば顔が赤くなるし、挨拶しただけでぱっと表情が明るくなるし、一言二言話しては、恥ずかしいのか、誰かの後ろにさっと隠れてしまう。
それなのに、告白は決してしてこなくて。
名前の恋愛相談を受けていた仁王によると、立場をわきまえていたいとかなんとか。
立場って何だ、同じ学生であり人間なんだけどな。
それでもまぁ、確かに、学校内で所謂カーストのようなものはあって。
彼女が俺に分かりやすい好意を向けていても、周りが微笑ましくそれを見ていたのは、彼女が大人しく純真で、幼いと思われていたからだろう。
特に勉強でもスポーツでも秀でた所もなく平凡な彼女。
一途に恋する彼女は微笑ましく、脅威にはならないと誰もが無意識に思っていたのだろう。高嶺の花に恋するが如く。
そしてそれを彼女も感じとる部分はあったのだろう。
だからこそ、立場というものがいつの間にか出来てしまっていた。



それでもいつかは告白してくるだろう、あるいは諦めるのだろう、と思っていた俺の考えに反して、名前は驚く程一途に、俺のことを想っているようだった。
時々、見守り続けた周囲が告白するよう彼女をつついたりしても、彼女から俺には話しかけられる程度で告白なんてものには結びつかなかった。
そんなこんなで、今日まできたのである。

いつの間にか、彼女に興味を持って告白を待って。それでも告白してこない彼女に好感を持ちながらもがっかりして。
最初は見られている立場だった筈の俺が、今では彼女をずっと見ているようになった。
名前はそれに気付いているのかいないのか、相変わらず目が合うと嬉しそうに恥ずかしそうにするのだった。



放課後、名前の友達に協力して貰って、二人きりになった教室。
すぐ近くに立っているわけではないのに、彼女の緊張が伝わってきていて。
目を合わせて、問いかける。
「ねぇ、俺のことまだ好き?」
好きでいてくれないと困るけど、なんて思いながら。

涙を溢した彼女の表情は、とても複雑な顔をしていた。
それもそうだろう、長い間大事に大事に守ってきたものを壊してしまう言葉だから。
それに答えてしまったら、それはなくなってしまう。
でも、それを壊さないと、先には進めないんだ。
「……好き、です」
とても小さな声で、一生懸命俺と目を合わせて、名前は言った。
顔は赤く染まっている。
そんな名前が可愛らしくって、俺は頬が緩むのを感じた。
「ありがとう、ずっと…その言葉を待っていたんだ」
俺と、付き合ってくれる?
まっすぐ、名前にそう言えば、はい、と言ってまた名前は泣くのだった。
そんな彼女が愛しくて。俺はそっと抱き寄せるのだった。
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