向日葵色
駄目だ、このままでは熱中症になってしまう。アイスでも買って食べようかな。そんな事を思いながら、ゆっくりと足を進める。
こんなに暑くなるとは思わなかった。というか自分が学生だった頃はこんなに暑くなかった気がするし、汗をかきながらも元気に活動していた気がする。……それなのに、今はすぐに水分が欲しくなるし、暑さに足取りも重い。地球のせいなのか、それとも自分の体力が落ちているのか。…どちらにせよ、悲しくなってくる。
こんなにいい天気なのに、……暑い、暑くて倒れてしまいそうだった。


カラン、と音のするドアを開けて入ると、外の暑さとはうって変わった涼しい空気に包まれた。ようやく目的地のカフェに着くと、待ち合わせと告げて、席につく。
汗を拭こうとハンカチを取り出すと同時に、スマホが電話を知らせた。
「…もしもし?精市?」
「あ、名前?ごめん、もしかしてもう着いた?」
「丁度今着いたところだよ」
「ごめん、少しだけ遅れる」
そういう精市は申し訳なさそうで、大丈夫、と私は笑って返す。汗を拭いながら、これなら汗で崩れた化粧を直す時間もあるかな、なんて考える。
焦らなくていいよ、待ってるから、と伝えて電話を終えると、化粧室へと行くべく、立ち上がった。


思ったよりも化粧は崩れていなくて、少しだけで済んだ。席に戻るとすぐに精市が来て、良かった、なんて思う。
「もうすっかり夏だね、私暑くて倒れるかと思ったよ」
「名前は暑さに弱いからね。倒れてなくて良かったよ」
「そういう精市は全然平気そうだよね」
「鍛えてるからね」
そう言いながら涼しい顔で紅茶を飲む精市は、とても汗をかいているようには見えなくて、ちょっと悔しい気持ちになる。そんな私に気付いて、精市は笑う。
「……今日は暑いからここから出たくないかも」
「俺はそれでもいいけど。…向日葵畑行きたいって言い出したのは名前なのにな。俺も楽しみにしてたからちょっと残念だな」
一面に咲く向日葵がみたくて、向日葵畑に行きたいと精市に言ったのは梅雨のこと。あの時は暑いどころか涼しい日も続いて、夏の暑さなんて忘れていた。
…見に行きたい気持ちと、暑さの間で揺れる私を見て、また精市は笑う。
「さ、行こうか」
そう言いながら手を差し出す精市に、倒れたら面倒見てね、なんて返しながらその手を取った。

しっかりと繋いだ手は暑くて、でも離したくなくて、ぎゅっと握る。暑い。夏だ。
「アイスでも買って行こうか」
そう言いながら、精市も私の手をぎゅっと更に握った。
そんな精市は夏の暑いに負けないくらいかっこよくて、眩しくて、暑さにか、精市にか、分からないけれど、溶けてしまいそうだと思った。
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