あなたに会いにきました


 うっすらと白い靄のかかった静かな通りをひとり歩く。しっとりと湿った空気はひんやりとしていて心地良かった。明け六の鐘が鳴るまでにはまだ間がある。気の早い雄鶏の刻を知らせる声が遠くから聞こえた。ヒョイと路地を入る。ここを通るのはいつぶりだったかと思い返してみたが、思い出したところで詮無いことなので考えるのをやめた。どうせ思い出すなら艶っぽいことの方がいい。吐息混じりの声だとか、しっとりと汗に湿った肌の感触だとか、目に映った白や紅。そして、最後にその奥の方の感触を思い出し、フッと笑いが零れた。

 顔を上げたときに目に入ったのは青だった。夏の空の色だ。あれにしちゃあなんとも洒落たことをしてんなァとちょっと感心した。垣根に這わせていたのは朝顔で、真っ青な花を一面に咲かせていて垣根の向こうには白群の空が見える。なかなか上手く拵えている。木戸をくぐるとポツリと鉢植えが置いてあった。鉢植えには朝顔が5つ6つばかり真っ白な花をつけている。

「まァ、悪かァねェけど……」

 いちばん見目のいい花だけを残して他の花を千切った。丸い白い花を見ながら、夕暮れ時にまだ明るさが残る水色の空に白く丸い月が昇るのを思い出した。ふと空を見上げるとだいぶ欠けてしまった心細げな白い月が浮かんでいる。手に持っていた花をポトリ、ポトリと、鉢植えのまわりに落とした。あれが怒るかもしれないと思ったがたいしたことじゃない。間抜けな寝顔を想像しクスリと笑ってからあれの待つ家へと入った。



(高杉さんと銀時さん)






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