豆の花
「間引きサボったらひでぇことになってんなぁ…」
俺は隣でもっさもさに茂った豆の苗を眺めながらそうボヤくヤローの横顔を見る。ツンとした鼻先とか、ぽってりとした唇とか、ちょっと眦が下がり気味の眠そうな目だとかになんだかなぁと思っていると、ソイツは「エロい」と呟いた。虚を突かれて「へっ?」とマヌケな返事を返した俺に「花。豆の花ってエロいのな」と、形のいい指が葉と葉の隙間に咲いている小さな白い花をチョンと揺らす。
薄い白い花弁を這う葉脈はまるで白い肌に浮き上がる青っぽい静脈のようだと思った。蝶が羽を広げたみたいな反り返った花弁がその存在を主張しているかと思えば、雄蘂や雌蘂は別の花弁に大事に大事に包まれている。
萎れた花弁をそっとめくると小さいけれど豆の形をしたそれが生っていた。人知れず密やかに授受しあったそれは豆を孕む。日ごとに膨らむ豆に花弁の奥の方で互いに睦み合ったそういう事実があったことを知らされる。
「……エロいな」
「だろ?」
俺の顔を見てにっこりと笑ったその顔にギクリとした。
(土方さんと銀時さん、かな?)
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