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caution
01 ロー出てこないけど【ロー落ちver】又の名をエース振られver



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エースは幼なじみで、幼なじみってヤツは往々にして近くに住んでいることが多い。エースと私の場合、近くどころかお隣さんだ。そして小さい頃から隣に住んでいるということは家族ぐるみの付き合いがあるってこと。

「おう、なんか久しぶりだな。元気か?」
「う、うん元気だよ」

私は今お隣さんの玄関にいる。手には肉だらけの肉じゃが。先ほど母親にオスソワケして来なさいと押し付けられたものだ。たった数歩で着いてしまうから心の準備なんてあったもんじゃない。

「えっと、これお母さんから」
「おぉいつもわりぃな」

私が肉肉肉じゃかを差し出すと、エースはぱぁっと目を輝かせた。視線はタッパーに釘付け、よだれまで垂らしそうな勢いだ。両手で大事そうに抱える姿がすごく可愛い。ふふっと笑ったところでエースの視線が漸くこちらに戻って来て目が合った。

あ、気まずい。

いつもなら、こういう時はそのままエースの家にお邪魔して一緒に食べるのが恒例なのだ。もちろん私の家に来ることも多いけど、おすそ分けの時はエースの家。何時の間にやらそういう習慣になっていて、当然母もそのつもりで私の分も入れている。でも今わたしとエースは絶賛気まずい感じなのだ。避けてるのは私。いわずもがな。エースの態度は変わらない。今だっていつも通りだ。

「あー、寄ってくか?」
「え。う、うん?」

前言撤回。
心なしかエースの態度もよそよそしい…気がする。


「ルフィは?」
「ん?あぁ今日はサンジの店でおごってもらうんだってよ」

えー羨ましい。取り皿を用意してた手が止まった。キッチンの奥で冷蔵庫を開けている後ろ姿に目を遣る。
サンジ君といえばバラティエという超有名店の息子だ。まだ高校生だけど既にバイトの域を超えたもはや修行とも呼べるような日々を送っている。普段は女の子にメロメロだけど、サンジ君は努力の人なのだ。料理だってべらぼうにうまい。

「いいなぁ」
「まぁな。でも俺はそっちのがいいけどな」

そっち、なんていうその言葉は明らかに私の目の前にある肉じゃがを指しているのに、エースは此方を振り向かない。
イヤだな、と思った。
エースとこんな風に気まずいのはすごく嫌。てっきり私が避けているのだと思い込んでいたけど、どうやら避けられていたのは私のほうだったらしい。

「…エース」
「なんだ?」
「ううん、なんでもない」

黙々と動く大きな背中の手元からは冷奴がちらちらと覗いていて、いつも通りふたつ用意されていることが逆に胸を締め付けた。こっち向け、なんて無意識に浮かんだその言葉は祈りにも似た何か。

頬に散ったそばかす、真っ黒なクセっ毛、肘にある小さなほくろ。波打った大きな背中、筋の浮き上がった腕、ごつごつした指。
私の知ってるエースと知らないエースはどっちが多いんだろう。

「お前さ、最近楽しそうだよな」

得体の知れない焦りのせいで無味に成り下がってしまったじゃがいもを咀嚼していると、エースがふと口を開いた。お箸と食器がぶつかる音がやたらと耳につく。

「そ、そうかな?」
「楽しいだろ?」
「…うん」

そっか、と呟いたエースは下を向いてお箸で肉じゃがを転がしていて、長い前髪のせいで表情が見えない。

「最近のお前見てると、俺ずっとお前のこと縛っちまってたんだなって反省したんだ」
「え、」

違う。
違うよ。
私がエースの傍にいたかったんだよ。

「ごめんな。アンが笑ってんだったらよ、なんかもう俺それで十分」

泣くように笑ってみせたその顔は私の見たことのないエースで。そのくせに「なんだよ、笑えよ」なんて言うもんだから笑って見せたけど、きっと今の私の顔もエースみたいになってるんだろう。そうと思うと笑えそうなもんだけど、やっぱり上手く笑えなかった。

そんな私を見てエースはまた困ったように笑った。エースのよくする表情だ。同い年だけどエースは時々お兄ちゃんのようになる。私が泣いたりわがままを言うといつもこうやって笑って、ぽんぽんと頭を弾むように撫でるのだ。案の定伸びてきた手のひらは、でも髪に触れる寸前で躊躇うように宙を握った。

「…もう俺の役目じゃねぇか」
「そんなこと…」

ない、とは言い切れなくて、そんな自分に愕然とした。

楽しいことや悲しいこと。落しては拾い上げて、笑って、増やして。そうやって分け合ってきた数え切れない小さなカケラを両手に抱えて、私とエースは歩んできた。大切で大切で、その気持ちを言葉にしようとすると涙が溢れてしまうほど、ダイジな人。
これからもずっと傍にいて欲しいと心の底からそう願っているのに、脳裏に浮かんだのは一見素っ気ないけど優しい目で笑う、エースではないあの人で。

「酷いことされたら言えよ?」
「うん、」

アンのこと大切にしねぇやつなんか、俺がぼこぼこにしてやる。
そう言ったエースはやっぱり泣き笑いの変な顔だったけど、その笑顔は優しくてあったかくて、私は涙を拭って精一杯の笑顔を返した。

「ありがとう、エース」

震えるほどに唯々幸せを願う、あなたと私はこれからもずっとずっと
【幼なじみってヤツ】


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