story | ナノ


▼ last for ace

[ name change ]


caution
01 【エース落ちVer】又の名をロー振られver(もし第6話でローを選ばなかったら)



**
***
****
10年以上の片思いは終わりを迎えた、らしい。
この恋の終わりはエースに愛想つかされる以外あり得ないと思っていた。まさか私から離れるような結果になるなんて、もしこの結果を過去10年分の私に聞かせたら全員揃ってあり得ないと爆笑するにちがいない。

部屋に戻ってからも私はずっとぼうっとしていた。ベッドに寝転んで天井を見上げる。考えないといけないことがあるはずだとは思うけど、なにも考えられない。これが噂の放心状態かなんて冷静に分析なんてしてみたりして。混乱も極限に達したら、頭は動くのをやめて客観的になるのかもしれない。
本当にこれでいいんだろうか。私はローが好きなの?エースより?確かにローといたら楽しい。キャッキャとはしゃぐような雰囲気ではないけど、静かに話を聞いてくれるローのそばは居心地がいい。いつも明るくて私を引っ張ってくれるエースとは正反対のロー。私は今、明らかに混乱している。

「あ、」

ふと気がつくと机に置いたままの携帯が震えていた。あ、と気付いた瞬間には切れてしまったけど、よく考えたら結構前からブブブブ鳴っていた気がする。不貞寝のまま少し離れた位置にある机を眺める。あいにく起き上がる気力はない。

「…アンさんは今電源が入っていないため、出られません」

枕に顔を押し付けながらよく聞くフレーズを真似て、もごもごと独り言。

ブブブブ、ブブブブ、ブブブブブ
再びうなり声を上げた携帯。いつまでたっても鳴り止まない。渋々起き上がって携帯を耳に当てると、聞き慣れた声が聞こえた。

「俺だ」
「あ、…」

名乗りもしない様子は相変わらず俺様で、部屋に戻ってきてからはじめて肩の力を抜いて笑えた。受話器越しに聞こえる今から会えるかという誘いに戸惑うと「下にいるから出て来い」とだけ告げて電話が切れた。なんて強引なと思うけど嫌な気は全くしない。

ローは電柱の下にいた。
黒いロンTにデニムという至ってシンプルな格好だけど、すらっと伸びた長身にとても似合っている。さりげなくつけたアクセサリーもかっこいい。近づくとふわっと香ったコロンはこの数日で随分馴染んだものだった。ほんの少し混じっているセクシーな甘さがローにとてもよく似合っている。

「どうしたの?急に」
「急に来ちゃいけないのか」

近くを通りかかっただけだというローに私は首を傾げた。この辺りはただの住宅街だ。自分で言うのもなんだけどなんの面白みもない。ん?何しにきたんだ?こてんと首を傾げると、ローもまるで真似をするように小さく首を傾げて可笑しそうに笑った。少し微笑んでくくっと喉を鳴らす程度だけど、途端に雰囲気が柔らかくなって、ついでに言うとセクシーさも倍増する。私はローが笑ったときの目許がいいな、と思う。すごく優しいから。そんなことを考えていると、目が合った。

「会いたくなっただけだ、アンに」

え、
疑問への答えだということに気付くまで数秒。気付いた瞬間には、耳から後頭部を覆うようにローの手が伸びていた。すらっとした親指が目尻を撫でて、もう片方の手が肩から二の腕を伝って腰に触れた。

キス、される。
目を開けたまま固まっている私の瞳を捉えたまま、ゆっくりと顔が近づいてくる。触れる直前でローがふと目を伏せた。唇を見たんだと思う。

ちょ、と待っ、
私、やっぱり…

「、あ、悪ぃ」
「エ、エエエース」

なんのタイミングか、唇が重なるまであと数センチというところでエースが家から出てきた。頭上からチッなんて舌打ちが聞こえて体が離れる。腰に回っていた腕は名残惜しむように一拍置いてから動いて、私の手を包んだ状態で収まった。
何をしてるんだ、私は。

「邪魔したな」

それだけを告げて家へと戻る背中を「ッエース!」私は無意識に呼び止めていた。驚いたような、怪訝そうな顔でエースが此方を振り返る。

待って。何で?
違うの。何が?

頭に浮かぶ言葉は混乱している自分でも疑問に思ってしまうものばかりで。
でも、

「なんだよ」

エースが困ったように笑ったから。
悲しそうに笑ったから。
漸く気付いた。

繋がっていた手にもう片方の手を重ねてゆっくりと解く。一瞬、ローの手にまるで抵抗するかのようにほんの少し力が篭った。ごく僅かな動きだったけどそこからローの気持ちが伝わって、手にかけた指が震えた。こんなに、こんなにまっすぐ想ってくれたのに。

「ロー、ごめん」

ううん違う。想ってくれたからこそ、私はきちんと向き合わないといけない。

「私、やっぱりエースじゃないとダメみたい」
「…」

ローがグッと眉を寄せて顔を背けた。さも不機嫌そうな、鬱陶しいとでも言いたげな表情だけど、私には伝わった。通じ合うような不思議な感覚。何故だがローの考えていることが私には分かる。出会ってまだ数日だけど、きっとそれは時間なんて関係ない類のもので。IFなんて言葉は意味がないけど、仮に、もし私がエースと出会っていなければ、エースを知らなければ、運命の相手ってやつはもしかしたらこの人だったのかもしれない。

でも、私はエースと出会った。明るくてあったかくて、いつも私に笑顔をくれる。私とエースの繋がりというのはきっとすごくすごく深いもので。これからもずっと一緒にいて欲しい、一緒にいたい、私がそう心から願うのはエースしかいない。とてもとても大切で愛しくて愛しくてたまらない人。

背を向けて歩き始めたローがふと立ち止まった。

「エースとか言ったか。こんな馬鹿女、首輪でもつけて繋いでおけ」
「うるせぇ」

挑発的な笑いを浮かべたローに、エースが険しい顔で返す。初めて出会ったあの日、ローが言っていたことを思い出した。

「ありがとう、ロー」

こちらを振り返ったローの口は上がっていて、その目元はやっぱり優しかった。

「どうしたの?エース」
「…あいつアンにキスしようとした。すげーむかつく「そ、そうだっけ?」…けど、」

「けど?」
「イイヤツだな」

ものすごく複雑そうな顔で、嫌いになれねぇなんて呟くから、声をあげて笑ってしまった。

【幼なじみってヤツ】
今日からはコイビト同士。
よろしくね、これからもずっとずっと。

prev



[ back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -