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「で、エース君よ。お前どうなっちゃってるわけ?ついに振られたのか?」
「んだよ、うるせーな」

アンちゃんってばかわいーもんなぁとサッチがガタイのいい身体をクネらせる。その後ろで、地べたに座り込んだまま呆れ顔でイチゴオレを吸っているのがマルコ。学年で言えば二つも上だけど、妙な縁で気がつけばつるむようになっていた。
二人はサボりの常習犯だ。初めてここに来た時も二人はのんきにグラウンドを眺めながらタバコを吸っていた。それなのにマルコは頭がいいらしい。サッチはアホだ。知らねぇけど絶対アホ。何が楽しいのかいつもキャッキャとはしゃいでいる。ちなみにオレはほとんどサボらない。当然たばこも吸わない。アンが心配するからだ。

「うるせーつってもお前、あれよ?ここみんなの隠れ家だから。んな辛気臭ぇ顔してたら絡みたくもなるって」
「ただの屋上じゃねぇか」
「まぁそうだけどよ、俺らの憩いの場でもあるわけよ」

サッチが屋上の淵にひょいと腰を掛ける。フェンスに凭れながら慣れた手つきで白いパッケージを取り出すと、指で器用にタバコを揺らしながら両手を広げた。動きがいちいち大げさだ。

「いいのか?さっさと吐かねぇとイゾウが来るぞ」
「あぁ、よい。あいつは男女のことに関しちゃあ意外に厄介だからねい」

さっさと吐いたほうがいい。マルコが可笑しそうに肩を揺らしつつ続く。この二人が結託したら正直敵う気がしない。おまけにイゾウにまで知られるとなっては、二人の言う通り非常に面倒くさいことになる予感がする。前から思ってたけどこいつらのノリは近所のおっさんみてぇだ。若さのカケラも感じられない。とりあえず話さないことにはこの場を逃れる術はないらしい。

「…ネタにすんなよ?俺にとっちゃあ一生がかかった大問題なんだからな?…ガキの頃なんだけどよ、俺あいつにプロポーズしたんだ」

今でもはっきりと覚えている。
9月16日の夕方。たんぽぽ公園のぞうさん滑り台で、俺はプロポーズをした。

『アン、おれとケッコンしてくれ』
『けっこん?』

『そうだ、スキどうしはケッコンするんだってよ。ケッコンしたら家族になるんだぜ。おんなじいえにすむんだ』
『よるも?!よるもバイバイしなくていいの?!』

『おう。…アンはおれのことスキか?』
『すき!わたしエースとかぞくになる!』



「へぇ可愛いことしてんじゃねぇか」
「よい」

「違うんだ、俺すげぇずりぃの。4歳だったんだよ、そん時俺ら。アンは結婚の意味なんて全然知らなくて、あいつたぶんスキとかもよく分かってなくてよ、俺が丸め込んだ。今思えばすげぇずる賢いガキだよな」

自嘲気味に笑うと、サッチはニっと笑ってマルコはひょいと片眉を上げた。言葉はなかったけどそれで?と静かに話を促してくれた。

両親のいなかった俺は、ガキの頃から家族ってのに憧れていた。両親の知り合いだったというじじいに引き取られてルフィと三人賑やかに暮らす今となっては、血のつながりなんてどうでもいいと思えるけど、

「けどさ、結婚したら自分で家族が作れるだろ?新しい家族っつーか、ちゃんと母親がいて俺が父親やってよ、そんでガキとか育てて」

誤解生むかも知れないけど、ガキの頃の俺は結婚ってのは言うならばリセットボタンのようなものだと考えていた。生まれた時から勝手にくっついて来た境遇はゲームのようにガチャンとしてリセットして、まっさらな状態から自分でイチから作り上げていけるのだと。

「なるほどなぁ、まぁ分からなくもないな、その気持ち。で?お前が結婚相手に選んだのがアンちゃんだったと」
「おう。俺は初めて会ったときからアンのことがすげー好きだったから、あいつしかいないって思ったんだ」

「アンも同じじゃねぇのかよい?あいつ見てるとお前一筋って感じじゃねぇか。サッチがこの前言ってた…なんだったかねい?」
「あぁ柔らかいハンコック?」

そうそう、それとマルコが笑う。判子コック?なんだそれ、と首を傾げるとわんぴーすって漫画に出てくるキャラだと説明された。アンはそのコックを純粋にした感じ、らしい。意味わかんねぇ。

「コックはどうだか知らねぇけど、とにかくアンは俺が好きだの結婚だのって言わなかったら、今みたいに俺一筋じゃなかったと思うんだよ」
「のろけかよい」

「違ぇよ!洗脳しちまったっつーか…よくわかんねぇけど。最近思うんだよ。高校入ってよ、あいつ何気にモテるだろ?」
「おうアンちゃんはすげーー可愛い!…んだよ、冗談じゃねぇか、睨むなっての」
「…あいつにはたぶん、もっといいやつがいるんじゃねぇかな」

ぽつりと呟いた本音に、二人は静かに笑った。

「だからよ、もしそういうやつが現れたら俺は身を引こうと思ってたんだ。なのに、なんでアイツなんだよ!!!信じらんねぇ!ふざけんなよまじで!」
「え、ヤダなにこの子どうしちゃったの」
「末期かい」

女垂らしで有名な忌々しい男の名前を出すと、マルコとサッチはあちゃーと顔を顰めた。

「あいつか」
「よりによってトラファルガーかよい」
「そうだぜ!!信じらんねぇ!あんな男にアンをやれるか!」

感情が高ぶって声を荒げると、二人は困ったような顔をして言った。俺らみたいな不良連中の間では、少なくともあいつは意外と真面目ないいやつなんだ、と。マルコもサッチも信頼してるやつなんだ、と。

「まぁ確かに遊んでるみたいだけどな。あいつのツレ…シャチって言ったか、そいつの話ではトラファルガーは本気で惚れた女ができるまでは彼女は作らない主義らしいよい」
「もしあいつが本気なんだったら、浮気とかもしなさそうだしなー。なんつーか病的に愛を注ぎそう。病的に」
「…なんだよそれ、余計怖ぇじゃねぇか」

指が震えた。本気で想ってくれるやつがいたら身を引く、なんて。アンが俺以外のやつを選ぶ可能性なんて本当は微塵も考えてなかった。実際に現れたかもしれないその存在に、俺は途方もない恐怖を覚えた。


【キミの幸せ、ボクの葛藤】
「ちなみにアンちゃんになんて言ったんだ?」
「お互い若いうちに色々経験しとこうって」
「うわ。お前な、高校に入ったら経験ってのは一緒に山登りしたり、旅行するっつー意味じゃねぇからな?」
「え?なにが?」
「純粋か。お前は純粋育ちか」

「そういやお前にカノジョができたって噂もあんだけど?」
「は?」
「…やっぱガセかい」


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