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▼  U-1

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「わぁくれるの?ありがとう!」

異世界とやらからやって来たアンは向こうに帰る気配も予兆も兆候もなく、すっかりモビーの一員になっている。
体質がやはり少し違うのか、1,2時間で元に戻る筈のウサリンゴの効果は3日経っても消えず、テンパッて涙目で自分のウサ耳をひっぱるアンを宥めすかすのに苦労したのも、もはや一ヶ月ほど昔の話。
ちなみにウサ耳はそれから2日して跡形もなく消え去った。非常に残念。…なんて言ったらアンは怒るだろうけど。だってしょうがねぇだろすげぇ可愛いかったんだからよ。

「サッチサッチ!」

身体はちっこくて、全体的にふわふわしてて、いつもにこにこ笑ってる、つまりちょっとどうすればいいのか分からないほど驚異的で圧倒的な可愛さを誇るアンは、モビーのペット、もとい癒し要員。ちなみに、俺ンだから手は出すなよ?話しかけたいってんなら俺に申し出なさい。許可制だ。できればそうだな、何故アンと話したいのかっつう理由を原稿用紙10枚くらいにまとめて提出してくれ。厳正に審議しようと思う。え、過保護過ぎるって?ドン引きだって?ノンノンノン、甘ェよ。そうでもしなきゃ純粋で疑うことを知らないアンは、ご丁寧に野郎共全員の話に付き合うのが目に見えてっからな。くりっくりの黒い瞳でまっすぐに相手をみて、楽しそうに笑うに決まってンだ。そうなったらアンに惚れるアホが出てくるだろ?つまりモビーの風紀が乱れるわけだ。だから、だめ。別に俺が独占したいとか、俺以外と喋んなとか、もういっそ俺とくっつかないと死んでしまう的な悪魔の実を食っちまえばいいのに、とかそんなことを思ってるわけじゃねぇかんな?純粋でふわふわなアンを守るためでもあるわけだ、うん。アンは可愛い上に天然だから俺がちゃんと見ててやらねぇとな。

「サッチ、見て見て!もらった!」
「捨ててきなさい」

「え?なんで?」
「なんで?じゃありません。そんな見るからに怪しげなうずまきのある果物なんて、人から貰っちゃいけません。あと上目遣いで首を傾げるなんて高等テクニックも使っちゃいけません。サッチさんどうにかナッチャイソウデス」

「え?あ、人じゃないよ?あのね、今あそこに留まってた鳥がくれるって、」
「言っちゃったか、鳥が。っつうかそれ絶対悪魔の実的なあれだと思うわけよ、サッチさんの経験上絶対そうなのよ。それを得体の知れない人…鳥から貰うなんて絶対ヤバいから。はい、没収…ってアンちゃん?」

見るからに独特のオーラを醸し出しているそれはやっぱりどうみても悪魔の実で、両手で大切そうに抱えているアンは、俺を見上げたまま(上目遣いでな)何故かあわあわしていた。

「サッチがいっぺんにいろんなこと言うからっ」
「…目ェ回ったのか。なにそれ超かわいいんだけど、目ェまわしてあわあわ言ってるアンちゃんの可愛さが異常なんだけど、むしろそんなアンちゃんを目の当たりにして動じない俺の理性ってすごくねェか?俺は今自分をこれでもかと褒めてやりてぇ」

「わぁーサッチが何言ってるか分かんないよぉ」
「あ、ちょ、」

俺による、もはや俺のためでしかない息継ぎ皆無の早口に、アンはますますテンパって、怪しげな果物を落としてしまった。
甲板に叩きつけられた拍子にものの見事にぱっくりと割れた果実は、驚くほどジューシーで「○△#$×!?!?」飛び散った果実のかけらと果汁は、アンのちっこい口にスクリーンヒットで飛び込んだ。

「ガッテム!なんで食った!?むしろ何で食えた?曲芸か!」
「うえぇえええ。み、みずっ」

「お、おうちょっと待ってろよ。すぐ取って来てやるから…つうかもう連れてった方が早ェか」

ピカッビリリリッ

「おわっ」
「ふぁっ!?」

慌ててアンを抱き上げた。正確には、抱き上げようとした。でもできなかった。
手を伸ばした瞬間、アンの身体がピカっと光ってビリリと電流が走ったからだ。感電して意識を失うほどじゃない。でも静電気よりは何倍も強い刺激に思わず手を引っ込めてアンを見れば、同じように驚いた顔でこちらを見上げているアンがいて、その頭にはひょっこりとウサ耳が生えていた。



【電気ウサギが誕生しました】
「っ!触りたいのに触れないこのジレンマッ」
「おいエース、あのアホ海に沈めて来いよい」
「やだよ、なんか病気うつりそうじゃねぇか。つうかアンまたウサ耳生えたなぁ、すげぇ可愛い…」
「あ?今なんつった?」
(…面倒くせぇ)

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