story | ナノ


▼  T-2

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とりあえず落ち着け。リーゼントのサッチという人に宥められた。

「そんでできればちょっと下りてもらえっとありがたい、っていうか、俺としてはむしろこのままでいいっていうか、このままがいいっていうか?非常に悩ましいとこなんだけどよ。精神衛生上ヨロしくないわけよ、こういう体勢は。まぁ自然に?腰抱いちゃってる俺が言うのもなんですケド?」

サッチは一人でなにやらまくし立てて、私がぽかんとした顔で見下ろしている間に、自己完結した。何故、明らかに体格の小さい私がサッチを見下ろしているのかと言うと、私がサッチの上に乗っかっているからだ。

「サッチ、これっ取れないよ!」
「俺の発言さくっとスルーなのね。あーまぁ取れねぇだろうなぁ。それウサリンゴだし」

「うさりんご?」
「そ、ウサリンゴ。簡単に言うとそれ食うとウサギになっちまうんだよ。つってもまぁ悪魔の実じゃねぇから、」

「ええええぇええぇぇ!?!?!?!」
「…あーハイハイ。俺、アンちゃんのキャラ分かってきたわ」

純粋天然ほわほわガールか、しかもウサ耳付き。敵?いやどう考えても違うよなぁ。っていうかすげー可愛いんですけどこの子。
サッチがまたひとりで喋っている。私はそんなサッチの言葉の中に物騒な単語が混じっているのに気付いて、敵ではないと必死に説明した。結果、サッチは私のことを異世界から来た不思議ガール(うっかりウサリンゴ食べちゃいました)との判断を下した。

「んじゃまぁとりあえずみんなんとこ行くか?一応状況伝えとかねェとだし」

あ、ちなみにそれ1,2時間で効力切れっから心配すんな。
本当は盗み食いの罰としてエースって人に食べさせるつもりだったらしい。そんな説明と謝罪を混ぜ込んだことを言いながら、サッチは立ち上がろうと片膝を立てた。その上に跨っている私は必然的に前かがみになって「おわっ、ちょ、アンちゃん?!」そのままサッチに抱きついた。

「サッチ!」

だってサッチは海賊だから、サッチの言う「みんな」って海賊でしょ?
それってきっと絶対、すごく怖い人たちだと思うんだ。

「…サッチと二人でいちゃ、ダメ?」

サッチが固まってしまった。
片手を後ろについてほんの少し腰を浮かせただけの中途半端な体勢は結構キツいだろうに、サッチは体の上に私の乗せたまま、ガキンと固まって動かない。
…息、してるかなぁ?
不安になっておそるおそる顔を近づける。顔が近づくにつれて、どこか遠くに飛んでいってしまっていたらしいサッチの意識が徐々に戻って来て、目の焦点が合った。
よかったぁ。ほっとしたのもつかの間、サッチはそのまま私の腰を引き寄せて、もう一方の手で私のあたまを包んだ。もう既に目と鼻の先にあるサッチの顔が少し傾いて、迫ってくる。流れるような自然な動きに、私はただぽかんしたまま、目を閉じた。

ん?これってキス、されるのかな?
目を閉じた瞬間に漸くそう思い至って、私の顔は瞬間湯沸かし器宜しく熱くなった。

…ポフ

「ん?」
「…ん?」

身構えていた私は、不思議な感触にゆっくりと目を開けた。
てっきりサッチの唇が当たると思ったのに、何故かふわりと弾力を感じたのだ。
目を開けると視線の先には同じく、あれ?という顔をしたサッチがいて、でも私を見た瞬間「ブッハハハハッ」爆笑した。

「な、なに?なんで笑うの?!」
「ウサッ、ウサ、」

なんのことだと自分の顔に触れると「!!!!!」顔全体がもふもふしていた。

「ササ、サササッチィ!」

アンちゃん、顔だけウサギはナシだろ。サッチは笑い転げながらそんなことを言うけど、そう言われたって私にだってどうすればいいのかちっとも分からない。おまけに「…なんかっシロクロで、」視界が黒と白なのだ。明るさは感じるけど、色がない。そう伝えると、サッチは漸く笑いを仕舞って「なるほどなぁ。生態はうさぎになってんだな」真面目な顔をして興味深そうに頷いた。

「今行かなきゃダメ?」
「あーちょっと休憩してからにすっか。しばらくしたら元戻んだろ」

「ちゃんともどる?」
「戻る戻る」

「そっか。よかったぁ」
「お、戻った」
「あ、ちゃんと顔だ」

ほっとしたのが功を制したらしい。あっという間に自分の顔に戻った。戻ったのならサッチの言うみんなとやらのところに行かなきゃいけないんだろう。

「…もう行く?」
「んーもうちょい休憩」

恐る恐る首を傾げて尋ねると、サッチはじっと私の顔を見つめて、んーーと難しい顔をして「後で」と言った。未だ体の上に載ったままの私を、サッチはひょいと抱き上げる。お姫様みたいだ。サッチはそのままスタスタと数歩歩いて「よっと」ベッドに腰掛けた。

「サッチ、重くない?」
「んー?全然」

ベッドに座ったサッチは何故か私抱きかかえたままだった。必然的に私はサッチの上にぺたんと座り込んだ。
大きな腕に体まるごと包み込まれる。とくんとくん。心臓の音に使い慣れた方の耳を押し当てると、すごく安心した。あー癒される。頭の上から振ってきた声が前髪を揺らす。


「ン、」不意にサッチがウサ耳に触れた。なんだか身体がもぞりとする。

「サッチ、それくすぐったい」
「そうか。ちゃんと神経繋がってんのな」

サッチは真剣な顔で、ふむとあごひげを擦った。ウサリンゴは珍しいって言ってたから、いろいろ確認したいんだろう。
サッチはウサ耳を撫でたり、軽く摘んだり、耳の中を指でこしょこしょしたりした。その度に体がもぞもぞしてピクリと反応してしまう。

「じゃあこっちは?」
「ンア、」

へぇ、こっちもちゃんと反応すんだなぁ。
ウサ耳を入念に調べていたサッチが不意に私の本当の耳に触れた。背中がふわりと浮き上がるような不思議な感覚に思わずしがみつく。

「アンちゃん大丈夫か?」
「うんだいじょうぶ」

心配そうな声に慌てて返事を返すと、そっか。サッチは優しく笑いながら私の首元に顔を埋めた。
キュっと抱きしめられたから同じようにするとサッチは小さく笑って、首にチュッと音を立てて唇を落とした。
大きな手が背中や腰を撫でる。その度にやっぱり私はもぞもぞした。

「サッチ、」
「んー?」

「なんかね、ふわふわするの」
「ふわふわ?」

言いながらサッチの手はずっと動いている。背中、腰、上に上がって首や耳。

「私、びょうきなのかな?…サッチ?」

こんな感覚今まで経験したことのないものだったから、ひょっとしてと思ったのだ。ひょっとして病気とかかもしれない。急にうさぎなんてよくわからないものに変身しちゃったから。思ったままを伝えてみると、サッチの手が一瞬止まった。

「んーどうだろうなぁ」

言いながらサッチは手の動きを再開させる。体に異常がないか確認してくれるような動きに私は大人しく従った。
手が服の隙間から入ってきて直接肌を撫でる。プチンと締め付けが緩んで、大きな手が膨らみを包みこんだ。

「サッチ、やっぱりなんかふわふわでっ」
「気持ちいいだろ?」

「ん?」
「気持ち悪いか?」

心配そうに顔を覗き込んでくるサッチに首を降る。気持ち悪くはない。確かに船は揺れてるけど、船酔いはしてない。

「ううん、だいじょうぶだよ」
「そか。ならよかった」

サッチは肩口に顔を埋めたままそう言って、ペロリと耳を舐めた。耳の縁をなぞるようにされてぶるりと震えた。それに気づいたサッチは、膨らみを包んだ手はそのままに少しだけ顔を上げた。
魔法みたいな手を動きを見つめていた私も釣られて顔を上げると、目が合った。

「気持ちいいだろ?」

サッチがまた尋ねる。確かに気持ちいいから私は、うんと小さく頷いた。
ん?とサッチが首を傾げた。聞こえなかったらしい。そう思った私は「きもちいい」ちゃんと声に出して伝えた。

「…すげー可愛い」

一瞬顔を伏せたサッチが小さく呟いた。
うまく聞き取れなかった。なんて言ったんだろうとそちらに気を取られていると、ふわりと身体が浮いて、次の瞬間には目の前に天井が広がっていた。
サッチの顔越しに見える天井を不思議な気持ちで見ていると、不意に唇が膨らみに触れた。先端を転がすようにするから、私はすごくふわふわして、もぞりと両足を擦り合わせた。

ふと思った。
先ほどから動き回っているのはサッチばっかりだ。私は寝転んだままで、それでふわふわして。サッチはいろいろしてくれてるのに、きっと全然ふわふわじゃない。ふくらみに顔を埋めているサッチの髪に、撫でるようにそっと触れた。

「サッチ、わたしもなんかしたいよ」

わたしばっかりで悪いから、わたしもサッチになんかしたい。
私がそう言うと、サッチは胸に顔を埋めたまま、またしばらく固まった。
「サッチ?」漸く顔を上げたかと思うと、サッチはすごく真剣な顔をしていた。もの凄く色んなことをすごいスピードで考えてますよ、とばかりの表情でじっと私の顔を見つめているサッチに、私は声を掛けるタイミングを完全に失って、同じように見つめ返した。

「…あーゴホン。んじゃ口で、」
「うん、」

「…」
「ん?」

「…いや、なんでもねぇ。じゃあえっとあー、チューでもするか」

それがいい。そうしよう。そうだそうだ、それがいいに決まってるさ、うん。サッチはまるで自分に言い聞かせるように何度も頷いてから「ん」目を瞑って顔をこちらに近づけてきた。私は困った。

「どうやってすればいいの?」
「したことねェ?」

こくりと頷くと、サッチまた一瞬顔を伏せて「…たまらん」またまたなにかを呟いた。ぱっと顔を上げたサッチはとても優しい顔で微笑んでいて、私はなんだか嬉しくなった。

「しょうがねぇなぁ。教えてやっから、ちゃんと覚えろよ?」
「うん、サッチありがと」

サッチがチュッチュと小鳥みたいに唇を合わせる。
数回繰り返した後、真似してみろと言われて私もチュッチュとした。唇をパクっとしたり、ほっぺたの裏をこしょこしょしたり。真似っこを繰り返していると背中辺りから得体のしれない感覚が這い上がってきて、やっぱり病気なのかもしれないと不安になった。不意にサッチの手が下に伸びた。

「最初は痛いかもだけど、頑張ろうな?」
「い、いたいの?」

「んーちょっとな。でも二回目からは平気だって言うし、最初がなきゃずっとできないだろ?」
「…うん」

「ずっとできないの、いやだもんな?」
「うん」

「いい子だなーアンちゃんは」
「へへ」

褒められた。
へへへと照れていると、何かが入ってくる感覚がした。

「サ、ササッ、」
「平気平気。ただの指だって」

「そっか。指か」
「そ、痛くねぇだろ?」
「うん」

痛くないように広げるんだと言ってサッチは何度もそこを触ってくれた。サッチは優しいなぁと思った。

「アンちゃん力抜けっか?」
「力、ぬ、いてる」
「うん、無理だよな」

ぐっと押し当てられるどう考えても入りそうにない物を押し付けられて、私はすっかりあわあわしていた。そうだよなぁ無理だよな、初めてだもんな。サッチは何故か嬉しそうにそんなことを言った。

「俺さ、ちょっと試してみたいことあるんだけど、いいか?」
「いたくない?」
「ん、全然痛くねぇよ?」

サッチが笑って、私の背中とベッドの間に手を入れる。
スススとゆっくり下がってくる手がこそばくて「あはは」と笑うと、サッチも釣られたように笑って、キュッ、なにかを握った。

「ふぁッ!!」

!?!?!?!
なに?なに?!?!
おしりの少し下がふわっとしたかと思うと、サッチがぐっと腰を打ちつけた。ふにゃりと力が抜けた次の瞬間に、身体中に衝撃が走る。

「入ったなぁ。やっぱこれ触ると、力抜けると思ったんだよな」
「いたいじゃん!いたいよ、サッチ!…ってこれ?今、なに触ったの?」

これこれ。サッチが可笑しそうにまたそれを握って、ふにふにする。

「…し、しっぽぉ?」
「おう、可愛いなぁこれ。まぁそれはさておき、続き頂いちゃってもいいか?俺もうヤベェわ」

そう言ったサッチはチロリと舌なめずりして、私はごくんと唾を飲み込んだ。
そういえばなんで私こんなことになってるんだっけ?


【林檎があったから、かじった】
もし目の前に林檎があったとしても、みんなはかじらないほうがいいよ。





サッチがずるがしこい狼に見えた人。正解←
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