はるちょと口紅

三途の携帯にマイキーから『家に遊びに来いよ』と連絡があったのが少し前。特に用事もないし、そもそもマイキーより優先するものは存在しないとマイキーの自宅にやってきた。ちょうどインターホンを鳴らそうとした時、三途の元にかけてくるなまえが目に入った。明るい弾んだ声で三途の名前を呼ぶ。

他の東卍メンバーはマイキーと同じ呼び方で揃えてるのに、なぜだか三途だけは名前で呼ばれる。三ツ谷のように妹がいるからややこしいといった明確な理由はない。いつもは何でもマイキーのマネをしたがるので、なぜ違う呼び方なのか誰も分からないのだ。しかし相手は子どもで、しかもマイキーの妹だ。その語呂が好きなのか、下手したら三途と覚えられないのかもしれない。そんなアホらしい事こいつならありえると皆深く考えていなかった。

「はるちょー」

「おう、ちびっころ。今日も元気だな」

実際は春千夜ではなく、上手く発音出来ず舌ったらずに「はるちょ」となる。子犬のようにかけよってきたなまえの小さな頭にぽすんと手を置くと満足そうに笑った。場地にチビと馬鹿にされるとぷんすか怒るが、他の奴に言われるとケロリとしてる。多分、場地に言われるのが気に食わないらしかった。

「はるちょもすこぶる元気だね!」

「俺のどこをどう見てそう思う…?」

へらっと笑って適当な事を抜かすなまえに乾いた笑いが出る。どちらかと言えば無表情が多い三途にはすこぶる元気と言う言葉は似合わない。食べ物のことしか頭にないなまえのことだから、言葉の意味も分からずに言っただけなのだろう。

「はるちょマスク外してー」

「まつ毛抜いたらスクラップにすっからな」

「しっぺ痛いからもうしないー」

三途の手を引いて玄関に入るとニコニコと三途の顔へと手を伸ばす。以前、長いまつ毛が気になったのか、抜こうとしたことがある。いや、実際に十数本抜かれた。流れるような考えなしのあの行動は、よくよく考えればマイキーに似てると三途は思う。

その場にいたマイキー含め幹部の隊長陣に「お前が100パー悪い」とケジメとして三途にしっぺを食らってからはやらなくなったが、いつも興味深そうにまじまじと見つめるのでその度に注意する。

「これの何が楽しいんだか、ガキはわかんねー」

「んふふ」

マイキーの妹の頼みなので言われた通りマスクを外して視線を合わせるようにしゃがみこむ。「やった〜!」と嬉しそうに三途の膝に乗ると、三途の口端を小さな手でペタペタと遠慮なしに触った。

「お前この傷怖くねーの…?」

「?」

「いや、いい。なんでもねぇ」

怖がられる事の方が多いこの傷。子ども相手ならなおさら。何も分かってなさそうなアホ丸出しのなまえに聞く事じゃないと分かっていたが、いつも楽しそうに触れてくるからつい聞いてしまった。なまえは三途の気も知らず、聞かれた意味が分からなかったのか、一瞬ぽかんと呆けるがすぐに閃いたように顔を明るくさせる。

「あんね、女のすっぴん見てケチつける男はクズなんだって」

「は?」

「けんちんとこのおねぇさまが言ってたー」

その答えは見当違いなのか、本当は分かってて言ってるのか定かではない。「はるちょは男だけど、これカッコよくて好きー」と単純に自分の好き嫌いで話してるだけのようにも見えて聞いてる方がバカらしくなって三途は笑う。

「はるちょとおそろいしていい?」

何の脈絡もなく突然そう言ったなまえに三途が「何を」と聞く前にドタドタと走って階段をのぼる。聞いといて返事を待たない自己中さがやっぱりマイキーそっくりだ。そして3分もしないうちにまたドタバタと走る音とともになまえが戻ってくる。

「なまえ、転けんぞ」

「だいじょう、ぶえ」

「ほら言わんこっちゃねぇ」

盛大に廊下にダイビングしたなまえを見かねて抱き上げて立ち上がらせる。転けたくせに泣かないどころか、いや転けたことすら気にならないのかキラキラの瞳で三途を見上げた。

「見て!」

「ああ、マスクだな。お揃いってそうゆうことか」

「ちがう〜。はるちょとおそろいはこっち」

さっきまではしてなかったマスクをつけたなまえ。お揃いというにはあまりに可愛いらしい柄のマスクに気づくが、どうやらそれではないらしい。ぶんぶんと首を振るので「なんだよ」となまえの顔をみつめるとサッとマスクを外した。そしてすぐに目がいったのがなまえの口端の赤い模様。

「…お揃いつーか、もう別物だぞ」

「ええー、なんで!?おそろいにしたのにー!」

「なんでってお前、これはもう口裂け女にしか見えねー」

きっと口紅か何かで三途の傷を真似したようだが、それはお揃いというにはあまりにもかけ離れている。しかも急いで適当に描きなぐったのと、上からマスクしたの、最後に先程転けて擦れたせいで口回りに口紅がべっとり広がり有名な都市伝説のビジュアルそっくりだ。

「? はるちょは男だよ?」

「そういうことじゃない。鏡見てこい、鏡」

「わかったー!まいきーにも見せてくるー」

「アホ!んな事言ってねぇ」

「もー。はるちょ、うるさいなぁ。もんく言うならはるちょ描いてよー」

「やだ。つか、その口紅エマのだろ」

口裂け女が全く分かってなさそうなアホ面のなまえ。怒ったようにポケットから口紅を出す。多分エマの口紅を勝手に拝借したものだろうと推測した三途は受け取りを拒否してすかさず断った。

「怒られる前に返してきな」

「はるちょのけち!」

「うっせ」

「ふーんだ。えまにバレないようまいきーに描いてもらうもーん」

「怒られてから泣きついてくんなよ」

「そんな子どもじゃないっ!」

三途にあっかんべーと舌を出す姿は子どもそのものだが。マイキーの元に行くなまえの後について三途もその後を歩く。口裂け女と化したなまえにマイキーが笑い転げたことで異変に気づいたエマの「こらなまえ〜〜!!」と怒鳴り声が佐野家に響き渡るのとまであと少し。

「はるぢょ〜」

「だから言ったろ。アホなまえ」

「だって、はるちょとおそろいしたかった…」

どれだけ派手にすっ転んで怪我しようが、強面な東卍メンバーに怒鳴られようが普段は涙の一つ見せないなまえ。しかしエマにがっつり怒られて半べそかいたなまえはグズつきながら三途へと両手を伸ばす。三途の予想通り、言葉にしなくても抱っこしろと甘えてくるなまえを仕方なそうに三途は抱き上げた。

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