はっぴーばーすでー!

「なまえ、こっちおいで」

ちょいちょいと赤木に手招きされたなまえは嬉しそうに駆け足で赤木に近寄っていく。ゴールデンウィークのお土産を北に一緒に渡しに行った時から赤木は優しくてなまえは大好きだった。

普段であれば、侑や治と一緒にいることが多いので自ずと同学年の角名や銀島といることが多いのだが、こうして一学年上の赤木や大耳、もちろん昔からの知ってる尾白とも仲良しである。

「路くん、どうしたん〜?」

「今度、信介誕生日やねんで」

「そうなん!?」

「来月の5日で18歳やから、なまえがおめでとう言うたら信介も喜ぶわ」

双子と違ってなまえの初恋を応援してくれてる赤木はとっておきの情報をこっそりと教える。

「信介くんプレゼントなにあげたらよろこぶかなぁ」

「せやなぁ。なまえがあげるもんなら何でもよろこぶんとちゃうか」

「なんでもがいちばんむずかしい〜」

もうすぐやってくる北の誕生日を聞いて目をキラキラと輝かせたと思えば、うーんと首を傾げながらプレゼントを何にするか考え込んでいる表情へとコロコロと変わるその表情と仕草に赤木は見ているだけで楽しくなる。

「双子、特に侑には秘密にしときな」

「侑くんに言うたあかんの??」

「侑も治もなまえのこと大好きやから、信介と仲良うするとヤキモチ妬くやろ」

「おもち?」

「ヤキモチな。なまえが信介と仲良うすると寂しいんや。あいつらはお子ちゃまやからなぁ」

直接的に邪魔をする事はないのだが、なまえが北に近寄るとそわそわしだすのは日常茶飯事である。最近では照れつつも北とも楽しそうに話すことが増えてきたなまえの姿に苦虫を噛み潰したような顔になることも少なくない。それを見てる分には面白いので、特に三年連中はあえてからかうことも多い。そして尾白に泣きつくことになるのが一連の流れとなっている。尾白はいい迷惑である。

なまえ自身、他の部員にするような抱っこや膝の上に座ったり、手を繋いだりなどのスキンシップは北にだけはすることがないのが双子にとって唯一の救いである。その理由も「恥ずかしいんやもん」と恋する乙女そのもので、何とも可愛らしいものなのだが。

「ま、俺ら3年はなまえに協力するから信介にバレんように欲しいもん聞いたるわ」

「せんにゅーそうさ!?」

「せやで!路君に任せとき」

「おお、路くんかっこいい!」

潜入捜査なんて言葉どこで覚えてくるのかと赤木は笑いながらも、警察官のようになまえに敬礼をする。すると、なまえも赤木の真似をするようにぴっと敬礼ポーズをした。本人はキリッとした表情のつもりだろうが、首をこてんと傾けてるので威厳なんか一切感じられず、ただただ可愛いだけである。

「なまえー、赤木さんと何話してんのやー」

その様子を見ていた侑と治が当然のようになまえの元にやってくる。最初こそなまえが双子に懐いて引っ付いてるのかと赤木は思ってたが、実際は双子の溺愛の方が遥かに勝っていると気づくのにそう時間はかからなかった。

「せんにゅーそうさ!」

「うん?警察ごっこか?」

「侑くんにはひみつやねん!」

「えー、秘密って何やの。教えてくれへんのか?」

「ないしょやのー」

侑に教えるつもりはないようだが、にこにこと笑いながら侑にぴとっとくっつく。双子の溺愛が遥かに勝るとは言え、なまえも双子が大好きなことには変わりなかった。「ごくひにんむやねん」と小さな口を隠すように指でばつを作るなまえに「しゃあないな、可愛ええから許したるわ」と笑って抱き上げると、なまえと同じ目線になった治が「なぁなぁ」と話しかける。

「俺にも秘密なん?」

「治くんも!おもちになるからひみつやもん。ねー」

「ねー」

にこにこと赤木の方を向いて同意を求めると、赤木も同じように首を傾げて答える。

「それ、なまえは可愛いけど赤木さんは無理ありますよ」

「なんやねん。俺も可愛いやろ」

「路くんもかわいいよー」

「なー」

___


北は困惑していた。なぜならクラスメイトや同級生に最近こぞって欲しいものや、好きなものを聞かれるからだ。聞かれる理由を尋ねるも口を揃えて「ええから騙されたと思って言うてみて」「悪いようにはせんから」と余計に怪しむような返答に戸惑いを隠せなかった。

横で聞いていた大耳はそれを見て愉快そうに笑うだけで理由を尋ねても「ただの会話やろ」と見え透いた嘘を吐かれる。大耳の他にも赤木や尾白なども知ってるようだったが「聞かんとってくれ、約束なんや」と申し訳なさそうに言われるだけでどうやら教えてくれるつもりは無さそうだった。

しかし北もそこまで鈍くはない。普通に考えて自分の誕生日が関係してるとすぐに検討がついた。けれど部内の連中ならまだ分かるが、特に仲良くもないクラスメイトや普段話したこともない同級生からも聞かれることにはやはり理解できず、分からないまま時が過ぎていった。

そしてやってきた7月5日の誕生日当日。誕生日とはいえ平日で学校もある。部活ももちろんある。家に帰ればいつもより少し豪華な飯にありつくだけ。いつもと変わりない一日と北はそう思っていたのだけれど。

「信介くん!」

体育館にひょっこりと現れたなまえに呼ばれる。今日はいつもやってくる金曜日ではないので、不思議に思いながらもなまえにゆっくりと近づいた。いつもであれば、なまえが来たら真っ先にすっ飛んでくる双子なのだが、来ないところを見ると今は体育館内にはいないらしい。

「どないしたん?今日は木曜やろ」

「やって今日は信介くんおたんじょうびでしょ?」

なまえの一言に今までの周りの不可解な行動に全てこの少女が関わっていたからだと合点がいく。同時になまえの後ろでにやにやと尾白や赤木が笑っているのが見えた。思い返せば、声をかけてきたのは同級生の中でも北ではなく、なまえと仲良しの生徒ばかりだった。

「これ、おたんじょうびのプレゼント」

「わざわざありがとうな」

「信介、開けて見てや」

小さな手から綺麗にラッピングされたプレゼントを受け取る。赤木に急かされるように中身を開けると沢山のプレゼントが詰まっていた。

「あのね、プレゼントはねタオルにしたの。前になまえがケガして、信介くんのダメにしちゃったから。この色はね信介くんがすきな色やからたくさんつかってほしいな。

そんでお手紙はね、国語のせんせーにみてもろたよ。はずかしいから、おうちでよんでね。

このクッキーはかていかぶのおねーちゃんと作ってん。信介くんのすきなバレーボールのかたちやの。

あとこれはびじゅつぶのおねーちゃんらといっしょにかいたやつやねん。あとね、」

北がひとつひとつプレゼントを取り出すたび、嬉しそうになまえが話す。それに優しい声で相槌をうちながら、そういえば好きな色や好きなお菓子を聞かれたなとか国語の授業中に教師からも誕生日を祝われて驚いたことを思い出す。やはりなまえがプレゼントを選ぶ前に裏で稲荷崎生(教師も含む)が暗躍してたのだろう。

「あ、それと信介くんおたんじょうびおめでとう」

「ふふ、ありがとう。今までもらったプレゼントで1番嬉しいわ」

「ほんま?信介くんがうれしいならなまえもうれしい」

「せやけど、こんなようけもろてええんか?」

「うん!信介くんによろこんでほしくて路くんたちに、せんにゅーそうさしてもらって、おねえちゃんらにもおてつだいしてもろてん」

「ふ、潜入捜査か。偉い本格的にプレゼント探してくれてんな」

「へへ、やってなまえは信介くん大すきやもん」

ふにゃふにゃと嬉しそうに笑うなまえに釣られるように北も緩やかに口角を上げる。いつもと変わり映えしないと思っていた誕生日がキラキラと色づきだした気がした。こんなにも嬉しそうに誕生日を祝われるのは初めてだったから。誕生日ってええなぁと柄にもなく思ってしまう。

「ええなぁ、俺の誕生日はもう終わってしもたからなぁ」

「俺もや。春生まれはプレゼントもらわれへん事おおいよな」

「はい、クッキーたくさん作ったからアランくんと路くんもあげる」

「ええの!?」

「せんにゅーそうさしてくれたから」

「はい、練くんも」

「ありがとう。あとで食べるな」

「とゆうか、双子は?」

「ややこしなるから、角名と銀に連れ出してもろてる」

そう赤木が笑ったが、なまえがいることを嗅ぎつけた侑と治が飛んでくるまでそう時間はかからなかった。そして尾白のクッキーが奪われるまであと5分。


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