理想のお婿さん

「ほんと侑って考えなしだよね」

「人でなしやな」

「ポンコツ」

2年のレギュラー陣が体育館の隅に集まってたわいもない話を普通にしていたが、侑から出た一言を皮切りに口々に侑に対する不満を述べていく。すると侑はみるみると顔を赤くして、大袈裟なほど怒った顔をした。

「喧しい!何やねん急に。楽しく話しとったのにみんなして悪口言う方が性格悪いやろ!」

「それは侑が外道なこと言うからじゃん。もう慣れたけど」

「ツムの人格ポンコツは今に始まったことやないしな」

「三つ子の魂百までってまさに体現しとるんやなぁ」

「うぐぬぅ…」

侑が勢いよく言い返せば、冷めた目つきの角名がさして興味が無さそうに答える。続く治も銀島もむくれてる侑に目を暮れず、呆れたように笑う態度に、余計に苛立ちを覚え口をへの字に曲げた。

3人から小馬鹿にされて言い返す事も出来ず、尾白にでも泣きつこうと思っていた矢先、小さな手が侑の曲がった口元をつんつんと突いた。

「なまえは侑くん大すきやで〜」

「!? 俺の味方はなまえだけや」

「ねぇ、銀ちゃん。侑くんは三つ子やないよー?」

他所の部活に遊びに行ってたらしいなまえが帰ってきたことに侑はパァッと顔を輝かせて、唯一の味方を離すもんかとばかりにその小さななまえの身体をぎゅうっと抱きしめた。よくある事なのか対して気にもせず、侑の腕に抱かれながら先程の銀島の言葉を額面通りに受け取ったようで不思議そうにキョトンとしている。

「三つ子って3人って意味やなくてなぁ」

「3歳ってことで小さい頃の性格は変わらないよってこと」

「なまえがええ子なんは、大人なっても変わらんってことや」

「へぇ〜」

依然として侑に抱きしめられたまま、なまえは説明に感心したように声を出した。

「なまえが侑くんすきなの、大きくなってもかわらへんってこと?」

「大正解や!なまえは賢いなぁ」

「それは変わってもいいんじゃない?」

「なまえが甘やかすから余計に付け上がんねん」

「確かにもうちょい侑に厳しくしてもええと思うわ」

可愛らしい答えを聞いて侑はなまえを抱きしめる力が強くなる。「甘やかしすぎはあかんで」と治が釘を刺すが、治自身もなまえを存分に甘やかしているのにどの口が言ってると角名と銀島は心の中で思う。といっても、幼いなまえを甘やかすのは別の話であり、自身にも覚えがあったので2人とも口には出さなかった。

「なまえはこんな俺でも好きって言うてくれとるんです〜」

「言うとくけど、お前よりなまえは俺の方が好きやけどな」

「俺が1番やし。2番手はすっこんどれ!」

「ツムが1番とは言うてへんし、お前がすっこんでろや」

「…お前らも相当やばいけど、なまえの父親も大概だよね」

双子の言い争いを見ながら角名はなまえからもらった手土産を思い出した。先日の投げキッスとブーケトスのお礼といって渡されたそれ。

なまえがブーケトスを貰ったことを父親も頭を悩ませてたらしい。ブーケトスを受け取った女性が次に結婚できるなんて言われてるせいもあり、なまえが「お花もらった〜」と話していても大手を振って喜べず、結婚と言い出さぬようにブーケトスに関して触れないようにしていたようだ。

しかし突然「お花はしあわせのおすそわけやねんて」と言い出し、話を聞けば「角名くんが言うてた」と聞き覚えのある名前がなまえの口から出てきた。なまえに投げキッスという超絶可愛いパフォーマンスを伝授したあの人物だと気づいてすぐに「角名君って何が好きなん!?」と双子に連絡が入ったらしい。

「発想の天才って叔父ちゃん感心しとった」

「口先の魔術師やな」

「変な異名付けんな」

ブーケトスに次に結婚するという以外の意味合いをなまえに伝えた事に大変感激したらしく、角名の好物に近い凍らせるタイプのシャーベットをなまえに持たせていた。ビンに入ってそれはチューペットと違って高級そうで角名は少し気が引けたが、返す事も出来ないので素直に受け取った。

「でもなまえが彼氏とか出来たら、やっぱり父親よりお前らが煩そうだよね」

「俺より背の低いやつバレー下手なやつは認めん!とか言いそうやな」

「それの何がおかしいん?」

ブーケトスで大騒ぎしてた事もあり、角名と銀島がからかうように言えば侑は至極当然の様に言い放つ。

「俺はむしろ逆やな」

「はぁ?自分より弱っちい奴になまえを任せられんやろ」

「自分が勝てへん相手になまえ取られたら嫌やない?それやったらまったく別のことしてる人がええわ」

双子といえどやはり全てが同じ考えではないらしい。顔色を変えず治がぽつりぽつりと話すと、侑は怪訝そうに眉を顰めた。

「せやけど、プロ野球とかJリーガーとかメジャーなスポーツのやつらにかっさわれるんは癪やわ」

「金持ちのいけすかんIT社長とか遊びまくってる芸能人も嫌やなぁ」

「お前らのなまえの彼氏像がカーストトップばっかなのはなんなの」

「なまえやで?こんな可愛くて良い子やねんから当たり前やん」

「お前らほど親バカやないけどなまえならありえそうやわ」

話題の中心であるなまえは未だに侑に抱かれたままちょこんとその膝の上に乗っている。侑から逃げられないと分かっているのか、大人しくしてるなまえはポケットに入れてたあやとりで1人遊んでいた。

「そしたらさ、北さんって結婚相手としたら良いんじゃない?」

「北さんなぁ…」

「あー、確かに。むっちゃ怖いけど間違ったことやらんし、根が真面目やもんな。怖いけど」

「せやなぁ。圧がすごいけど、仕事とか地に足つけてちゃんとやりそうやなぁ。怖いけど」

話題がなまえからなまえの初恋相手、北に話が移る。北がこの場にいないことを良いことに言いたい放題の侑と治であるが、憎きなまえの初恋泥棒ではありつつも認めてる部分も多いようだ。

「ちゃんとした人だから、将来めっちゃ出世しそう」

「亭主関白に見えて意外と優しいとこあるしな」

「なまえ、見る目あるんやなぁ」

「けどなんやろ、」

「「やっぱり嫌やなぁ」」

今度は考えが同じだった侑と治が声を揃えてなまえを見る。きっとこれからもこの双子に恋路を邪魔されるなんて考えもしてないなまえは「これ、信介くんに教えてもろてん」とあやとりで作ったほうきを嬉しそうに見せた。



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