「角名くん、きいて!きいてっ!」
「何?」
「あんね!今日ね!チアのおねえちゃんとこ行ってくるねん」
土曜日にも関わらず、侑と治に手を引かれてやってきた双子の従兄妹なまえ。母親の仕事の都合で毎週金曜日は宮家に泊まることになっているので、そのまま双子についてやって来たらしい。
「あれ、昨日の家庭科部の人じゃなくて?」
「そのおねえちゃんとこは、ごはんたべてから行くねん」
「へぇ、よかったね」
「うん!!」
昨日、家庭科部を一瞬でメロメロにしたなまえだったが、角名の見てないところでも違う生徒たちを虜にしていたらしく、今日はバレー部の見学だけでなく他の部活にも遊びに行くようだ。嬉しそうに角名に報告すると「アランくーん!きいてー!」と今度は尾白の元にもかけていく。その後姿は少し侑に似ていた。
なまえが稲荷崎に顔を出してからまだ2週間と経ってないのに人脈の広げ方が凄まじいなと角名や先に報告を聞いていた赤木はなまえの懐に入るスピードの速さに驚いていた。
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「それやってもろたん?」
バレー部が昼休憩に入るとタイミングよくなまえが体育館に戻ってくると、朝はおろしていたなまえの柔らかい栗毛がピンク色のリボンによって後頭部で一つにまとめられている。
「おねえちゃんがしてくれてん!チアガールはポニテがきほんなんやて」
「その髪型なまえが世界で1番似合っとるわ!」
「ほんま間違いないわ!なまえは何しても可愛らしいなぁ」
「えへ、ありがとう」
侑と治の言うことに大袈裟に聞こえるかもしれないが、たしかになまえは良く似合っていた。幼いといえど女の子といったところなのか、少し髪型を変えるだけでも雰囲気が変わる。なまえが動くたび、ゆるくカールした毛先が揺れた。
「楽しかったか?」
「うん!おねえちゃんたち、すーっごくかわいくて上手やった!」
「良かったなぁ」
「なまえも治くんらみたいに、おねえちゃんにおーえんされたいなぁ」
羨ましそうに話すなまえに治は、なまえの方が何倍も可愛いし、なまえに応援してもろた方が何倍もやる気出るのなぁと思いながら、可愛らしく結んでもらった髪を崩さないように気をつけながら頭をなでた。
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「なまえは結局、侑と治どっちが好きなの?」
各々が談笑しながらのんびりと昼食をとる最中、治の膝の上でもぐもぐとおにぎりを頬張るなまえにとんでもない質問が飛んできた。月バリ読みながら駄弁ってた侑も黙々と飯かき込んでた治も面白いくらいぴたりと動きが止まる。
実は双子も気になっていたことであるが、いまだに聞けずにいたことを角名が顔色も変えずサラリと聞く。スマホで撮影してるところをみると、それがパンドラの箱とわかっていながら面白がって聞いてる様子だった。
自分のが可愛がってるし自分が選ばれるやろとお互い妙な自信があるものの、もしも自分じゃなく片割れの方がいいとなまえに言われたことを考えると恐ろしい。なまえの父である叔父が2位陥落したときの落ち込みようと言ったら、それは世界の終わり、絶望の淵に立たされたような落ち込みっぷりであった。自分もその道を辿ると思うと怖くて聞きたくない。いやでも大丈夫や、俺が選ばれるしと心に言い聞かせる。
「侑くんも治くんも大すきやで」
「侑くんはおもしろくて元気やからすきやし、治くんはやさしくていつもいっしょにいてくれるからすきやねん」
「なまえはええ子やなぁ」
「ツムに気ぃ遣えるなんて偉いなぁ」
「なんやとサム、お前に気ぃ遣うたんや!」
答え次第によっては双子乱闘必須であるこの難問に100点満点の答えを出したなまえに尾白はホッと胸を撫で下ろし、揉める前に北を呼びに行こうかと立ち上がりかけた赤木は再び腰を下ろした。しかし、面白くないのは角名である。
「んー、じゃあ結婚するならどっち?」
先程の問いとは違い、答えが一つになる質問をなまえに投げかける。角名はなまえを困らせるつもりは毛頭なく、どちらかと言えば双子に対する日頃の鬱憤バラシのつもりと単純に面白そうだから聞いているようだが、当事者である双子たちは気が気でない。
「あのね、けっこんするんは侑くん」
「よっしゃぁぁぁぁ!」
誰もがもっと悩んで答えると思っていたなまえがすんなりと侑を選ぶと、ノータッチエースを決めたときと同じくらいの喜びようで侑がはしゃぐ。反対に治は地面にめり込むんじゃないかと心配するほどうなだれている。
「なまえは可愛いから貰われへんことないで」
「侑に責任とらせると面倒だから、よく考えた方がいいよ」
「お前ら喧しい!いらんこと言わんでええねん」
先日の貰い手がいなかったら責任をとって侑にもらって貰うという話を知っている角名と銀島は、なまえに思い直すよう進言すると侑は特徴ある眉をひそめた。
「…お前、昔っから結婚するのは自分って言い聞かせてたもんな」
「侑、それ洗脳やないか」
「ちゃいますよ!サム余計なこと言うなや!」
「やってなー、侑くんとけっこんせな侑くんないちゃうねんて」
「同情じゃん」
ようやく、ムクリと顔を上げた治がボソッと呟く。治の言うように、侑はなまえが小さな頃から「なまえが大きなったら侑くんのお嫁さんにしたるで」と言い聞かせていた。どうやらそれが今回の勝因に繋がったようだ。
「それに侑くんぽんぽこやから、なまえがけっこんしてあげなあかんねんて」
「ぽんぽこ?」
「ポンコツのことか?」
「なまえが結婚してくれるんやったら、ぽんぽこ狸でええわ〜」
双子の口癖の悪口がなまえの言い間違えにより可愛らしい言葉に変わる。だらしない顔で笑う侑と違い治はまだムスッと顔をしかめていた。
「いやでも意外やわ、治やと思てた」
「俺も治やと思ってました」
「治くんはなまえのおよめさんにもらうのー」
フォローするように赤木が治に声をかけると、それに銀島が同意する。なまえは食べ終わった弁当を片付けながら急に突拍子もない事を口にするので、話を聞いてた全員が「ん?」と首を傾げる。
「なまえ、治くんのごはん大すきやもん。治くんに、いぶくろつかまえられてしもてん」
そう言ってなまえはにっこりと笑う。
「てことは、なまえがほんまに結婚したいんは、治やな」
「はぁ!?俺やなかったん!?」
「主夫か、ええな」
数分前と立場が変わってにやける治とうなだれる侑。自分の一言でそんなことになったとつゆ知らずのなまえは双子を置いて、約束していた家庭科部にポニーテールを揺らしながらかけて行った。
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