いざ、稲荷崎へ

なまえの初恋相手探し隊を結成した後の双子は「俺が隊長や!」「なら俺は大佐やな」としょうもない小競り合いがあったものの、目的達成の為の根回しは異常に早かった。練習が終わるや否や、自宅ではなく稲荷崎高校付近に住んでいるなまえ宅に直行すると、

「なぁ、なまえ。練習見に行きたいって言うてたやんなぁ」

「うん!行きたい〜」

「じゃあ金曜学校終わってから来たらええやん!」

「俺らが監督にお願いしとくわ!」

「やったぁ!!」

なまえ本人をその気にさせた後は、すぐさま自宅に帰り母親に話をつける。

「オカン。西宮ガーデンズ買い物行きたい言うてなかった?」

「せやなぁ、土日は多いから平日行きたいんよ」

「今度の金曜、なまえ稲高こればええやん!その間行ってきいや!」

「ゆっくりしてええで。俺らが責任持って面倒みるわ!」

「あんたらなまえが関わると熱心やなぁ。せやったらお言葉に甘えさせてもらうわ」

翌日の練習では監督に、

「監督!なまえが監督に会いたい言うてました」

「試合やと遠くからしか見れんから練習に行きたいって」

「なまえやったらいつでも大歓迎やわ」

そして最後の砦、

「き、北さん。俺らの従兄妹が一人で留守番せなあかんから、その間練習見に来てもええですかね」

「監督は一応オッケーもろてるんですけど」

「監督が良い言うてるんやったら、ええんとちゃうんか」

「ほんまですか!?」

「小さい子なんやったら、流れ玉あたらんように気ぃつけたれよ」

「「もちろんです!」」

1番の難関だと思っていたバレー部主将、北を拍子抜けするくらいあっさりクリアしたその様子を遠巻きに見ていた角名と銀島は、双子の思惑通りになったことに呆気に取られていた。

「マジでやるとは思わなかった…」

「俺も冗談で言うてるんやと思ってたわ」

事の発端者でもあり、言い出しっぺという事で(治により勝手に)参謀に任命されてる角名だったが、どうせ監督や北あたりからストップがかかると思って高みの見物を決めていた。だが、トントン拍子に話は進み次の金曜日にはなまえがやってくると決まった侑と治は大喜びしており、双子の従兄妹を溺愛するがゆえの執念はバレーに対するものと変わらないのではないかと考える。

「本当、スイッチ入ると止められないよね」

「せやな。でも俺は、従兄妹の子に会うたことないからちょっと楽しみやわ」

「まぁ、双子が溺愛するのも分かるくらい可愛いかったよ。人見知りもしないし」

「侑が溺愛しとるとか想像つかんわ…」

「なけなしの良心があったんじゃない?」

角名もあの時その光景に目を疑ったが、繋がれた小さな手をしたなまえのこの世の悪なんか何も知らないような純粋無垢な瞳で屈託なく笑いかけられた事を思い出すと、双子の溺愛するのもなんだか分かってしまうような気がした。人でなしと名高い侑だが、懐っこくて可愛らしいなまえにはそれなりに侑の中の最大限の優しさをもって接しているのだろう。

「それより、あいつら大喜びしてるけど、目的が何だったか覚えてんのかな」

「いや、それはないやろ…とは言い切れへんのが侑と治やからなぁ」

あくまでなまえの初恋相手探し隊であり、目的は初恋相手を探すというどちらかと言えば、双子にとってよくない事だったはずが「俺のカッコええサーブ見せたんねん!」「俺のスーパーレシーブ&スパイク披露したんねん」とはしゃいでいる侑と治に監督が注意する前に北の「練習はちゃんとせなあかんよ」と正論パンチが飛んだ。

___

そして来たる金曜日。稲荷崎高校の放課後はいつもよりざわついていた。

それもそのはずバレー部、いや稲荷崎高校の中でも人気1.2を争う宮兄弟に抱かれたちびっ子。それもそこらのちびっ子ではない。淡い栗毛で毛先がカールした子ども特有の細くてさらさらとした髪の毛に透明感のある真っ白い肌にピンクのほっぺた。クリッとした大きな目と長いまつ毛。誰が見ても美少女。そしてそんな美少女を抱いたイケメンの双子。こんな状況を通りすがる女子たちが黙ってるわけがない。全員が二度見どころか凝視である。

「なまえ、今日は見学やからあんまはしゃぎすぎたあかんで」

「その言葉、お前だけには言われたくないわ」

「なまえ、おりこうさんにできる!そんでな、侑くんと治くんにがんばれーって言うねん」

「え〜、なんなん。可愛いすぎるんやけど」

「今日もうちの従兄妹が天使すぎるわ…」

ざわついているのは女子たちだけでなく、バレー部の面々もだった。いやむしろ普段の様子を間近で見てるからこそ余計にその光景に目を見張る。

「アランくんや〜」

「おー、ホンマに来たんやなぁ」

「あ!角名くんもおる!」

「え、覚えてるの」

「むー!角名くんとなまえはおともだちやから、わすれてへんよ!」

「おい角名。なまえのこと馬鹿にすんのは許さんで」

「せやで。うちのなまえはツムより遥かに賢いねんから」

「侑、そこはちゃうわ!ってツッコむとこちゃうんか!?」

「いや、あながち間違ってへん」

「お前、なまえは小一やろ…。頭どないなっとんねん」

昔から面識のある尾白や、以前顔を合わせた角名は抵抗なく侑に抱かれてるなまえに話しかけてはいるが、他の部員、特に1年連中は普段なら関わらないような小さな女の子、しかも目を惹くような容姿に加えて双子もかなり可愛がっている様子に、え、ツッコミ待ち?いやあの尾白さんがツッコまないないってことは平常運転?どういうことなん!?と頭を悩ました。

「あんな、侑くんと治くんのおともだちに、はじめましてってごあいさつできるねん!」

「やっぱりなまえは賢いなぁ」

「ほんなら他のバレー部のやつら紹介するわ」



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