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 性的な暴行は、最初の一回だけだ。あれ以外はすべて、慎也も合意の上のセックスだった。慎也は葵との身体的なつながりをタカに知られることが怖かった。同性に強姦されても、同性を好きになる。葵はそのことを笑った。それは慎也が淫らな人間だからだと言った。慎也自身、そのことをとてもうしろめたく感じていた。だから、同じく同性を恋人にできるタカには知られたくなかった。
 もちろん、要司にだって知られたくない。だが、自分の口から話せる日なんて、絶対に来ないだろうと慎也は思った。泣きやむことができない慎也の肩を、要司が抱き寄せてくれる。
「慎也、抵抗できないことは弱いことじゃないんだ。辛かったな。もう大丈夫。もう二度とあいつの影に怯えたりしないで、生きていけるからな」
 泣いている慎也には見えなかったが、要司が鋭い視線をタカに向けると、タカは深く頷いた。
「あ、頭が、い……痛い」
 しゃっくりを上げながら、頭を押さえると、要司が頭痛薬を持ってきてくれた。水の入ったグラスとともに二錠だけ飲む。
「慎也、今日はもうゆっくり休め」
 要司がそう言って、慎也の体を支えた。
「階段、上がれそうか?」
「はい」
 慎也は必死に要司の後を追いかけた。二階の右奥にある寝室にはベッドが一つ置いてある。
「俺のベッドだけど、俺はあっちの部屋で寝るから」
「あ、俺があっちに……」
「布団しかないから。おまえは体を休ませないと、な?」
 もう一度断ろうとしたが、慎也は頭痛に耐えきれず、ベッドに腰を下ろす。要司がその体をゆっくり布団の中へ入れてくれた。
「俺、明日は仕事あるけど、おまえはここにいるんだ。分かった?」
 頷くと、要司の手が額をなでた。かすかにタバコのにおいがする。おやすみ、と言われて、慎也もそう返したつもりだった。扉が閉まった後の暗闇の中、後頭部の奥の痛みと戦いながら、慎也は目を閉じる。眠気はまったくない。
 ソファの下に隠した錠剤のシートを取りに行きたかった。頭痛に耐えながら、慎也はそれでも安堵している自分に気づいた。今夜だけは葵が自分のそばにいない。セックスをする必要もない。しばらく、そのことについて考え、幸せな気分になり、そして、頭痛に耐えきれず、起き上がった。
 扉を開けて、階下を見ると、電気はついていない。だが、妙に視界が明るい。慎也はこっそりと階段を下りた。勝手口のほうが明るい。それが朝日の明るさだと気づくのに時間はかからなかった。昨夜、何時頃にベッドへ入ったかは分からないが、もう朝が来ている。
 慎也は急いでソファの下へ手を入れて、シートを取り出した。錠剤を一つだけ口へ放り込み、台所の蛇口から水を飲む。飲んでから、不意にテーブルの上にあるメモに気づいた。
【ひるに1回、かえってくる。よーじ】
 慎也はそのメモを手にソファに座り込んだ。薬が効いてきたのか、まぶたが重い。メモを握り締めたまま目を閉じると、すぐに意識が飛んだ。

 目が覚めた時、慎也はまだベッドの中にいた。確か一度起きたはず、と思い、体を起こして、階下へ降りると、台所に要司が立っている。
「要司さん?」
「ん? あ、起きた?」
 ガスレンジの上で銀色のスプーンを持って、鍋の中身をかき混ぜていた要司は、嬉しそうに笑う。
「何かさぁ、消化にいいものって思って、おかゆ? 作ってるんだけどな……」
 焦げて茶色くなっている鍋の中身をのぞいた慎也は、慌てて、火を止めた。
「火が強過ぎです」
「そうなのか? 買ってくればよかった」
 要司をよく見ると、彼は仕事帰りの格好そのままで、一息つく暇もなく自分のために食事を用意してくれたのが分かった。

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