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「何やってんだ?」
 タカが運転をしながら笑う。
「運転が粗いんだよ」
 要司はムッとしながら言ったが、すぐに笑顔に戻り、こちらを見た。慎也は視線を感じて少し振り返る。
「髪、伸びたなぁ。伸ばすのか?」
 タカの態度も含めて、要司達が自分にとても気をつかっていることは分かっている。いつもと変わらないように接してくれている。本当は、友達だなんて言えるほど、まだ互いをよく知らないのに、こうしてまた来てくれた。
 慎也は二人に聞きたいことが山ほどあった。どうやってあそこを見つけ出したのか、どこまで自分のことを知っているのか、会わない間の二人の日常を含めて、慎也はすべて知りたかった。だが、言葉の代わりに出てきたのは涙で、慎也は声を殺しながら泣いた。
「か、い……かみ、いらなっ……」
 葵が髪を伸ばせと言ったから、そのままにしていただけだ。ハサミがあるなら、今すぐにここで切ってしまいたい。
 信号待ちで停車した時、タカが明るい声で言った。
「俺が切ってやる。けっこう器用なんだぜ?」
「それだったら、俺のほうが器用だろ?」
 要司がそう言って、「俺が切る」という言い合いが始まった。後続車にクラクションを鳴らされて、タカが渋々と運転に集中する。要司の家の前で、慎也と要司だけが降りた。
「親父さんに車、返してくるだけだから。一緒にメシ食おうな?」
 慎也は頷き、車が路地に消えるのを見送った。
「慎也、寒いから中、入れ。俺、服、見てくるから、座ってて」
 階段を上がった要司を見て、慎也は居間のリクライニングソファに座った。壁は白いままだった。本棚は二階に上げたのか、少し広く感じる。借りているパーカーのポケットから錠剤のシートを取り出して、慎也はこっそりとソファの下へ隠した。
「古着で悪いけど、これとかサイズ的に合うと思うんだけどな」
 要司が長袖のTシャツ数枚とラフそうなズボンを持ってくる。
「ズボンは部屋着用な。明日、下着と一緒にジーパンとか買ったらいいから。着替えるだろ? 俺、台所にいるな」
 要司は慎也を見ないように冷蔵庫を開けて、中を確認し始めた。慎也は背中を向けて、服を脱ぎ、彼の古着を身につける。彼が言ったようにサイズはちょうどいい。裾の部分を腹へ引っ張る時、慎也は自分の胸に目をやった。鋭い光を放つニップルピアスは、外そうと思えば外せるものだ。
 慎也は指先でそのピアスに触れた。丸いキャッチ部分を回せば取れる。だが、慎也の指先は震えてうまくキャッチ部分を回せない。
「慎也?」
 時間がかかり過ぎたのか、要司が心配そうに声をかけてきた。慎也は諦めて、シャツの裾を下ろす。
「あ、服、ありがとうございます」
「全然。パーカー、着とけよ。寒いだろ」
 慎也はパーカーを羽織った後、もらった服をきれいにたたんだ。葵の服もたたむと、要司が葵の服だけ取って、勝手口のほうへ行く。
 テーブルにいつの間にかお茶の入ったグラスが並んでいた。慎也は一口だけ飲んで、ソファに少しもたれかかる。
 ぎゅっと抱き締められた時は夢だと思ったが、今はもうはっきりとそれが現実だと分かる。不安は消えない。また葵が迎えにくるかもしれない。要司達に迷惑をかけるかもしれない。そのことを考えると、葵のもとへ帰るのが一番いいと思えてきた。
「なぁ、豚キムチと鴨南蛮どっちがいい?」
 携帯電話を耳に当てた要司が、台所のほうから戻ってくる。
「え、あ、どっちでも。でも、キムチは……そんなに……」
「鴨南蛮、二つで」
 携帯電話を切った要司は、タカが弁当を買ってきてくれると言ってほほ笑んだ。

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