falling down40 | ナノ





falling down40

 病院で使用されていた拘束具は手足を痛めるようなものではなかった。トビアスはレアンドロスが衣服を脱がせてくれるのを待ち、裸になる。体に残っている傷痕は、どれも古いものばかりになった。
「ビー、気をつけて」
 バスタブとシャワーボックスの前に敷かれたタオルで転びそうになる。トビアスはバスタブの縁をつかんでしゃがんだ。
「おいで」
 シャワーボックスのほうへ、レアンドロスと一緒に入る。お湯の温度を調整した彼は、髪と体を入念に洗ってくれた。
「ここにいる」
 レアンドロスがシャワーを使う間は、バスタブで待っていたが、トビアスは彼を見ていたくて、シャワーボックスの中に留まる。
「寒くないか?」
 首を縦に振ると、彼は笑って、頭からお湯を被り始めた。
 二人一緒にバスタブへ入った。レアンドロスがいつもしていたように、お湯を少しすくっては肩へかける。
「ありがとう」
 レアンドロスはほほ笑んだ。昨夜の名残か、まだ目の周囲が赤い。
「め、いたい?」
「大丈夫。着替えて、髪を乾かしたら、朝食にしよう」
「いちごじゃむ、たべる」
「あぁ」
 先にバスタブから出たレアンドロスは、バスタオルを広げた。抱きつくように飛び込むと、彼はちゃんと受け止めてくれた。

 トビアスは大きく口を開けて、イチゴジャムを塗ったパンを食べた。食べている最中に、どうしてもジャムがプレートの上に落下する。それを指先につけて口へ運びながら、トビアスはレアンドロスと朝食を取っていた。
 玄関から、「おはようございます」とあいさつをするジョシュアの声が聞こえる。トビアスはレアンドロスを見た。彼はそっと椅子を引いてくれる。椅子から立ち上がり、玄関まで駆けて行くと、荷物を持ったジョシュアが室内用の靴へ履き替えたところだった。
「じょしゅあ!」
 甘えるように背中越しに飛びつくと、彼は前のめりになったものの、支えてくれる。
「トビアス、よかった。元気そうですね」
 涙声になったジョシュアは、ぎゅっと抱き締めてくれた。
「げんき。どこもいたくない」
 イチゴジャムで汚れた手でジョシュアに触れてしまい、彼のコートが汚れた。だが、彼は気にすることなく、「朝食の最中ですか?」と笑った。
「うん」
 キッチンへ戻り、椅子へ座った。レアンドロスが手を拭いてくれる。拭き終わった後、かじっていたパンの半分へ手を伸ばした。ジョシュアはコートを脱ぎ、茶色い封筒を差し出す。
「ポストに入っていました」
 レアンドロスは封筒を受け取り、ペーパーナイフで開ける。中身を引っ張り、雑誌のタイトルを見てすぐに中へ戻した。
「レアンドロス様?」
 怒気を帯びた表情になったレアンドロスに、ジョシュアが眉を寄せる。トビアスも口を動かしながら、彼を見上げた。
「ビー、ジョシュアと一緒に食べてて」
 レアンドロスは髪をなでた後、ジョシュアに視線を送る。
「君が来るのを待ってたんだ。彼を一人にできないから」
「昨夜、ミルトス王子が見つけたとうかがいました。本当なんですか? 本当に王妃様が?」
 ジョシュアが語尾を上げる。レアンドロスは何も言わず、電話を持って、彼の部屋のほうへ歩いて行った。
「じょしゅあ、たべる?」
 はっとしたジョシュアは、舌足らずに話し、イチゴジャムで服まで汚しているトビアスを見つめた。
「トビアス……」
 名前を呼ばれて、首を傾げると、奥の部屋から怒鳴り声が聞こえた。トビアスは手にしていたパンをテーブルへ落とし、瞳をにじませる。レアンドロスの声だ。

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