vanish38 | ナノ





vanish38

 慎也は前回、使った部屋と同じ部屋に寝かされていた。拘束されていないのに、体が動かない。暴力による恐怖と痛みから、慎也はただ大人しくしていた。あれから、葵の友人である二人に何度も犯された。媚薬は使われていない。慎也は殴られるのが嫌で、自ら媚び、優しくしてくださいと懇願した。
 葵は家を出る準備を早めると言い、それまでここにいろと言われた。慎也はぼんやりと白い壁を見つめる。何がいけなかったのか、そのことをずっと考えていた。勉強ができない弱い自分は誰も必要としていない。だが、強くなることができない。涙が流れると傷にしみた。自業自得、という言葉が浮かんでくる。すべて自分が招いたことなんだろうか。葵を狂わせているのは自分なんだろうか。
 慎也は胸に光る二つのニップルピアスを見た。怖くて触れることすらできない。今も、乳首はじんじんと熱を持ち、痛みがあった。衣服のない慎也が外に出る可能性はないが、葵は万が一、慎也がベランダから飛び降りることも予測して、乳首へ穴を開けた。胸で光るピアスは慎也の自尊心を粉々に打ち砕き、もし、飛び降りて自分を消してしまえたとしても、その後のことを考えるとそんなことはできなかった。葵は慎也が存在を消しても、慎也の名を汚して、凌辱する気だった。
 諦めよう、と何度も何度も思った。このピアスを外す勇気は慎也にはない。葵の所有物として生きていけばいい。要司もタカも自分達を仲のいい義兄弟だと思っているに違いない。それなら、そう思わせて、普通に接していくほうがいい。それを壊して、自分の現状や気持ちを伝えても何にもならない。
 体が震えるのは寒さやおそれからじゃなかった。深い絶望から笑みがこぼれる。葵の狂った愛のためになら、自分の存在は認めてもらえる。受験に失敗したけれど、義兄と仲良く暮らしている友人としてなら、自分の存在を認めてもらえる。自分一人がそれを受け入れるだけで、世界は何事もなく日々を刻む。
「っ……さ、よ……要司さっ……」
 慎也は白い壁に背中をあずけて、拳を握って泣いた。子どもが泣くじゃくるように大声で泣いた。誰も聞いていない。誰にも聞こえない。もう嫌だと叫んだ後、慎也はカウンターキッチンまで歩き、そこにある錠剤を口に含んだ。冷蔵庫の中には飲み物だけが入っている。水を取り出して一気に飲み下した。これで意識を落とせる。その間だけは何も考えなくて済む。しだいにまぶたが重くなり、慎也はその場に座り込んで目を閉じた。

 尻を見せろと言われて、慎也は尻を突き出す形で葵へアナルを見せる。小型ローターの先がアナルから伸びていて、その先はコンセントにつながっていた。葵が大学へ行っている間、慎也のアナルは常に何かを入れられ、ペニスは射精を禁止された。
 父親が葵の独り立ちを許すことは容易に想像できた。葵は二週間ほどで、時田の親が所有しているこのマンションの部屋を借り、引っ越した。もともと慎也を監禁し、犯していたモデルルームのような部屋は、今や一人暮らしの青年の部屋に変貌している。この部屋に一人で暮らすには若過ぎる葵と、性奴隷のように扱われている慎也がいつも部屋にいる。誰が見ても違和感のある異常な光景だが、ここを訪れる人間は決まっていた。
「二人とも、おまえがいなくなったのに捜索願いも出さない。まるでおまえが存在してなかったみたいだ」
 葵にそう言われた時、慎也はただうつむいて、涙を落とした。そんなことは分かっているのに、実際に聞くと胸が痛んだ。

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