falling down31 | ナノ





falling down31

 トビアスはレアンドロスが医者とともに部屋を出るところを見て、彼が本当に怒ったのだと思った。
「レア、おこって、る」
 ジョシュアの肩に頬をつけ、トビアスはしゃっくりを上げた。
「君に怒ったわけではありません。おそらく病院へ行くことになるでしょうから、まずは着替えましょう。あ、アイスクリームを買ってきました。朝食の後に食べますか?」
「……うん」
 ジョシュアはにっこりと笑った。
「あ」
「どうしました?」
 トビアスはレンズの向こうにあるジョシュアの瞳を見つめる。
「ジョシュアはおうじ?」
 ジョシュアは首を横に振る。
「違います」
 間違えたにもかかわらず、ジョシュアは笑いながら、頭をなでてくれる。トビアスはもう泣きやんでいた。ベッドの上にあるサマーショールを手にする。バスルームで顔を洗うから、と呼ばれて、ジョシュアの後を追いかけた。彼は歯磨きを手伝い、髪をブラシで整えてくれる。
「誰かが切ってくれたんですか? 長さが少しばらついてますね」
 鏡の中の自分へ話しかけたジョシュアに、トビアスは頷く。
「おせわするひとがきってた」
「お世話する人ですか? ケアセンターの人かな?」
 トビアスは首を横に振り、振り返る。
「ままがつれてきたおんなのひと。ごはんもつくってくれた」
 ジョシュアが朝食の準備をする間、レアンドロスが着替えを手伝ってくれた。彼はクローゼットを開き、中からパンツやシャツを選ぶ。医者はもう帰ったのかと思い、窓際へ寄った。庭には花壇が見える。
「ビー」
 トビアスは足音を立てないように、レアンドロスのそばへ近づく。それに気づいた彼は、小さく吹き出した。
「どうした?」
 レアンドロスは脇の下へ手を入れて、トビアスのことを軽々と抱え上げる。突然のことで、トビアスは、「わぁ」と声を出した。
「身長は変わらないのに、軽くなったな」
 ベッドの上に座らせてくれたレアンドロスが、悲しげに笑う。
「この服、一緒に買いに行ったんだ。落ち着いたら、また色んなところに行こう。腕、上げて」
「……おこってない?」
 両手を上げた状態で、レアンドロスを見上げると、彼は目尻を拭った。
「怒ってない。トビアス」
 両手をまとめて握り、ひざの上に置いた彼は、トビアスの足元へひざまずく。
「俺は君の味方だ」
 レアンドロスはそう言って、両手にキスを落とした。きらきらと輝く淡いブルーの瞳に見つめられ、トビアスはただ頷いた。

 着替えた後は三人でテーブルを囲んだ。ロールパンのような丸いパンとその上に乗せるジャムや野菜、魚の酢漬けが並んでいる。トビアスはテーブルの上を見つめるだけで、手を伸ばさないため、レアンドロスがパンを二つに切ってくれた。
「ビー、何にする?」
 トビアスは向かいのジョシュアが、手際よくバターの上にイチゴジャムを塗るところを見ていた。
「イチゴジャムにするか?」
 頷くと、レアンドロスが同じように、半分になったパンの上にバターとイチゴジャムを塗った。
「もう一つはハムとタマゴにしようか?」
 レアンドロスが数種類のハムから二枚ほどフォークで取り上げて、パンの上に乗せた。ジョシュアがゆでタマゴをナイフで切って、彼へ渡す。小さなプレートの上にイチゴジャムのパンと、ハムとタマゴのパンが並んだ。彼はクリームチーズを塗って、一口食べる。トビアスも手でつかんで、パンをかじった。甘酸っぱいジャムの味に目を見開くと、ジョシュアがほほ笑む。
「ブレイトン病院がいちばん近いですね。フィズの祖父が経営しています」
 ほほ笑んだジョシュアは視線をレアンドロスへ移した。
「俺が連れて行く。来週から講義が始まるだろう?」
「最初から詰め込んだりしませんよ。私が与えられた時間の中で、さらに時間を作ることが得意だと、ご存知でしょう?」
 トビアスはタマゴだけをつかんで、プレートの上に戻した。
「それに、トビアスは無保険状態です。手続きは私が同行したほうが断然早いと思います」
 レアンドロスは溜息をつき、プレートに戻されたタマゴに目を留めた。

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