falling down24 | ナノ





falling down24

 地下室にいたのは数ヶ月だけだ。トビアスはじゅうたんの上に寝転がり、本を読んでいた。プレップスクールに通う子ども達が好んで読む冒険小説は、現実を忘れさせてくれる。陽の光がよく入るこの部屋には本棚とベッドしかない。窓は天窓になっていて、扉付近にあるパネル上のボタンを押せば、天窓は開閉できた。
 母親は週に三回ほど、男を連れてくる。その男達はこの部屋でトビアスを抱いた。地下室での出来事を思い出し、震えながら拒絶するトビアスに、「痛くて、嫌かもしれないけど、ママの代わりになってくれる?」と母親が言った。
 その時、トビアスの脳裏にあったのは、あの後、髪をなでてくれた母親の手のことだけだった。あれを我慢すれば、また優しくなでてもらえる。ただそれが欲しくて、「いい子ね」と言って欲しくて、トビアスは頷いた。
 男達の要求は日増しに激しくなり、SMプレイに近い行為をされるようにまでなった。最初、大声を出してしまったため、そういった行為をする時には地下室へ連れて行かれることになった。そのまま地下室で拘束されてしまうことも多く、トビアスは母親に泣きついたが、声を出したトビアスが悪いと言われた。トビアスはそれ以降、どんなに痛い時でも大声を出さなくなった。
 いちばん嫌なことは、無理やりビールやワインを飲まされて、酩酊状態で犯されることだった。アルコールに弱いトビアスは、数口だけでも世界が崩れていくほど酔う。酔っている時は感情も高ぶり、ほんの少しの刺激にも過剰に反応してしまう。ガラスを熱であぶったように歪んだ世界では、声も遠く、トビアスはいっそう一人ぼっちで孤独に陥っていた。
 トイレもバスルームも部屋の中にあった。だが、廊下へ続く扉の鍵は施錠されていた。トビアスは本を置き、立ち上がる。体の傷が増えたくらいで、身長は伸びていない。壁には窓が設けられていないため、トビアスは天窓を見上げた。室内は暖かいが、外には雪が積もっているのだろう。天窓は黒くなっていた。

 天窓から入る光を両手で押さえ込んだ。トビアスは口元に笑みを浮かべた。施錠された部屋に閉じ込められてから、一年以上が経過していた。今年の五月で十八歳になるが、トビアスの精神は成長しなかった。八歳までの記憶を持っていたトビアスは、徐々に本を読まなくなり、言葉を話さなくなり、今の状態へと変わった。
 母親が連れてくる男達との性交は、たいてい夜のため、トビアスは昼頃まで寝ていることが多い。自分でシャワーを浴び、準備することができなくなり、食事も誰かが見ていないと何も口にしなくなり、母親は仕方なく世話係の人間を雇った。トビアスからすれば祖母の年齢に当たる女性は、この部屋で起きていることを知っても動じず、最初から変わらない態度でトビアスの世話をしている。彼女はクロワッサンとバナナだけだった食事に手を加え、きちんと食べさせた。
 開錠する音が聞こえる。トビアスは両手で光を押さえていたが、立ち上がって、扉のほうへ寄った。この時間はほとんどの場合、世話係が来てくれる。そう思って、出迎えた。だが、入ってきたのは男だった。落胆とともに後ずさると、男が腕をつかんだ。
「トビアス、覚えていないだろうが、ずいぶんやせたな」
 男が言ったように、トビアスは彼のことなど覚えていない。彼は空いている左手でトビアスのあごをつかんだ。
「だが、美しさは変わらない」
 男はトビアスの指先を口元へ運び、キスをした。トビアスは嫌だと思ったが、母親との約束を思い、嫌だという気持ちを言葉にはしなかった。我慢すれば、また褒めてもらえると思っていた。男の指示で、裸になり、ベッドの上で四つ這いになる。アナルに潤滑ジェルのチューブが入った。
 一時期、声を出さないように歯を食い縛っていたら、相手の気分を害してしまい、喘ぐように言われた。トビアスは懸命に喘いだが、快楽を伴わない声など、すぐに演技だとばれてしまった。その後しばらくはアルコールを飲むよう強要され、演技も何もなく、ただ夢のような世界で強烈な快感だけを与えられた後、この世の終わりのような二日酔いを味合わされた。
「仰向けになって」
 男はトビアスが仰向けになると、足首を引っ張り、彼自身のペニスをアナルへあてがう。
「目を閉じるな」
 挿入される前に目を閉じたら、男はそう言った。トビアスは男を見つめる。涙で視界がにじんだ。挿入の際の痛みはほとんどない。それでも、トビアスは泣いていた。男のペニスが奥へと突き進む。彼はすべてをおさめると、かすかに笑った。
「緩いな」
 男の手が軽くたち上がっていたトビアスのペニスを握り締める。
「っああ、いや、いた、や」
 トビアスは飛び上がる勢いで、自分の手で男の手を振り払おうとした。男は左手でトビアスの首を押さえ込む。
「あぁ、やっと締まった。トビアス、ここが緩くなって、男を満足させられなくなったら、どうなるか分かるか?」
 ぎゅっと握られたペニスの痛みに、トビアスは悲鳴を上げたが、男は構わず腰を動かす。彼は耳元で、次に緩いアナルだったら、とトビアスを脅しながら犯した。トビアスは自らペニスを握り、息を止める。腹に力を込めながら、じゅうたんの上にある光を見た。光は、手を伸ばしても届かない距離にあった。

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