falling down19 | ナノ





falling down19

 レアンドロスがトビアスの懲罰部屋行きの頻度について、言及を始めた。プリフェクトが与える罰についても、彼の意見を述べる。学長は終始、遮ることなく、まずは彼の話を聞いていた。
「レアンドロス王子のご意見はよく分かりました。トビアスの呼び出し回数については、以前、別の教諭からも指摘がありまして、きちんと事実関係の確認を取りました。トビアス、君自身も回数が多いと思っているのか?」
 トビアスは小さく、「はい」と言った。
「ただ、それは、俺が規律を守らなかったからだと反省しています」
 学長は大きく頷く。トビアスはレアンドロスのほうへ視線を向けなかった。
「具体的に」
「はい。俺が制服をきちんと着なかったり、消灯時間を過ぎても部屋へ戻らなかったりするからです。だから、懲罰部屋へ呼ばれています」
 学長は何度か頷き、レアンドロスへしたり顔を見せた。
「当事者がこう言っているのですから、この件に関しては特に問題はないと考えております」
「確かに、彼がそう言うなら、私がこのことについてこれ以上、何か申し上げても意味がないかもしれません。しかし、学長もお気づきだと思いますが、懲罰という行為じたいが、すでに行き過ぎている気がします。規律を守ることは大事です。違反すれば、罰があって当然です。それは何もこの校内だけのことではありません」
 大人びた口調で話すレアンドロスが、こちらを見ながら、話を続ける。
「これはあくまで私の意見ですが、規則を破った生徒に対して、鞭打ちなどの罰を与えるのは少々、野蛮だと感じます」
「野蛮ですか?」
「はい。違反した、だから、痛みを与える、の繰り返しで、確かに違反者は減ります。ただ、本質を見抜いていないのであれば、それは表面上、従わせただけで、真の理解を得ていることにはなりません」
「……つまり?」
 学長は要領を得ない様子で、体を前へ寄せた。
「トビアス」
 レアンドロスはトビアスの肩に手を乗せ、体を彼のほうへ向かせる。
「制服をきちんと着ないのはどうして?」
 トビアスは視線を動かした。嘘をついていると思われてはいけない。言葉を口にする前に、焦点をブルーの瞳へ合わせる。
「俺が模範生徒じゃないから」
「消灯時間を過ぎても寄宿舎へ戻らない理由は?」
 二人部屋に変わり、行われた制裁を思い出しそうになる。トビアスはまばたきをした。
「俺が悪い生徒だからだよ」
 言いながら、笑ってみる。
「察してくれよ、俺だって、同室者に自慰行為、見せるほど馬鹿じゃない」
 人差し指でレアンドロスの胸を突く。彼の耳は少し赤くなっていた。

 壊されてしまった温かい出来事が去来する。夏季休暇の最後に、トビアスは彼の部屋で彼を誘った。母親や彼の弟ミルトスからの圧力もあったが、半分以上は彼のことを好きだから、という理由からだった。
 だが、レアンドロスはキスしかしなかった。好きな人とするなら、もっとちゃんとした場所がいいと言われた。
「……俺のこと、好き?」
 好きな人と言われて、思わず漏れた言葉に、レアンドロスはにっこりと笑った。
「あぁ、好きだよ。ジョシュアから聞いたけど、ビー、君の顔だけを気に入ってるわけじゃない。授業中のまじめな態度や廊下を歩いてる時の毅然とした態度を見て、ずっと話してみたいと思ってた。オーブリー先生と仲よかっただろう? 先生と話す時だけ、嬉しそうで、ちょっと嫉妬してた」
 左手の甲にキスをしたレアンドロスがベッドから下りて、床へひざをついた。
「いつになるか分からないけど、『その時』は素敵な思い出にしような?」
 トビアスは泣かなかった。レアンドロスがひざをつき、自分の左手にキスをするのを見つめた。十歳の頃、初めて口でするように言われた時から、愛を知ることはなかった。
 あの最後の夜から、レアンドロスのことを愛していた。愛を知らなかったが、その気持ちはすんなりとトビアスの心を震わせ、幸福な気分にさせた。

「トビアス」
 学長がせき払いをする。
「今夜は必ず消灯時間までに部屋へ戻りなさい」
 トビアスは静かに頷いた。
「レアンドロス王子、あなたのおっしゃる通りだと思います。だが、トビアスはあなたがお考えでいらっしゃるような生徒ではありません」
 学長の視線を受け、トビアスは何を言われるのか、すぐに想像がついた。

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