falling down18 | ナノ





falling down18

 レアンドロスとジョシュアに連れられてきた生徒がトビアスだと分かると、養護教諭は笑った。
「何だ、トビアスじゃないか」
 親しみを込めた口調だったが、トビアスには、「何で来たんだ?」という意味にしか取ることができない。レアンドロスが事情を説明すると、彼は心底、驚いた表情を見せ、心配するように肩へ手を回した。
「じゃあ、まずケガがないか、確かめよう。制服を脱いで欲しいけど、二人の前で脱ぎたくないよな?」
「はい」
 養護教諭は六台あるベッドの一つへ、トビアスを座らせた後、カーテンを閉める。
「二人ともそこで待っててくれ」
 トビアスが口を開こうとした瞬間、養護教諭は肩を押した。厄介だと言わんばかりの視線をぶつけられる。
「痛いところは?」
「……ありません」
 養護教諭は耳元へくちびるを寄せる。
「出血したのはアナルからか?」
「はい、っ」
 左肩を強く押され、トビアスは痛みから声を上げそうになった。
「脱げ」
 トビアスが現在のプリフェクト達から受けている懲罰は、軽い鞭打ちとパドルでの殴打だった。表面上の傷は軽度の裂傷と打撲傷が目立つ。アナルからの出血はプリフェクト達によるものだけではなく、制裁を受けることで発生していた。
「懲罰だけだろう?」
 制裁はいじめと同義であり、そういった低俗なことがノースフォレスト校で起きているという事実は隠蔽されるべきものだった。
「はい」
 うしろを向くように指で示され、トビアスは養護教諭へ背中を向けた。下着の上から臀部をなでられる。
「懲罰部屋へ呼ばれるのはどうしてだ?」
「……俺が規則違反をするからです」
 服を着ろ、と言われ、トビアスは制服を身に着ける。カーテンを開けた養護教諭は笑みを浮かべながら、診断書を書き始めた。
「出血は見られなかったから大丈夫。鞭を使った痕があった。私からプリフェクト達にはもちろん、学長や各教諭へもこの件は伝えておこう。鞭を使う場合、続けて同じところを打ったり、三回以上打ったりすることは禁じられているからね」
 レアンドロスがソファから立ち上がる。
「先生、それはつまり、三回以上の殴打があったということですか?」
「それは当事者に聞かないと分からない。もし、トビアスが連日、規則違反をして次の日にも同じ場所を三回打たれていたとしたら、それはプリフェクトの懲罰としては正常の範囲になる」
 丁寧に礼を言ったレアンドロスだったが、保健室を出た瞬間、表情を変えた。トビアスの手を握り、大股で歩き出す。
「ジョシュア」
「はい」
「診断書のコピーをもらってきてくれないか? それを学長室へ持ってきて欲しい」
「はい、すぐにお持ちします」
 トビアスは学長室へ向かっているのだと知り、レアンドロスの手を引いた。彼は立ち止まる。
「たとえ三回でも、鞭で打つなんてひどい。君の肌は白いから、痕も残りやすいだろう? それに……嫌だろ?」
 ブルーの瞳がにじんでいく。
「痛いのは嫌だろ?」
 自分のために涙をこらえているレアンドロスを見て、トビアスはひどく冷静になった。彼のような優しい人間が治める国は、きっと安泰だろうと思う反面、一個人にここまで入れ込んでしまっては、今後、王として辛い選択をしなければならない時に傷つくだろうと思った。
 レアンドロスは返事を待たずにまた歩き出す。学長室へはあまり来たことがなかった。扉をノックすると、中から老齢な男性の声が聞こえる。
「失礼いたします」
 学長はレアンドロスを一瞥して、すぐに立ち上がる。
「レアンドロス王子、よくいらっしゃいました。さぁ、どうぞ」
 革張りのソファ席をすすめた学長は、レアンドロスのうしろにいたトビアスに気づいた。
「君の相談はあとで聞くよ。廊下で待っていなさい」
「マイヤーズ学長、トビアスも一緒です。彼のことでお話があります」
 革張りのソファに座ると、居心地の悪さは最高潮に達した。トビアスはテーブルの上にある砂時計を見つめる。

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