falling down17 | ナノ





falling down17

 トビアスは少しネクタイを緩める。
「何だろ? また俺らしくないとか、これ以上、王子様に近づかないでとか、そういう話?」
 椅子を引いて座ろうとすると、ジョシュアは首を横に振った。
「制服を脱いでください」
「え?」
 予期していなかった言葉を聞き返す。ジョシュアはもう一度、同じことを言った。
「制服を脱いでください」
 トビアスは背を伸ばし、扉の向こうに映る影を見やる。
「俺、声、抑えられないから、けっこう喘ぐよ? 王子様、まだ外にいるみたいけど、もしかして、最終的にあいつも呼ぶの?」
 トビアスはかすかに苦笑した。トビアスにとって服を脱げという言葉は、今から性行為をすると言われたことと同じだった。ジョシュアは眼鏡を押し上げて、「違います」と言った。
「昨日、あなたが懲罰部屋から出たところを見かけました。ふらついていて、気になったから、部屋へ入りました。そしたら、血の痕が残っていました。養護教諭のところを訪ねたけれど、あなたは来なかったと聞き、寄宿舎へ行っても、あなたはいなかった。どこかケガをしていませんか?」
 最後の言葉が優しく響く。トビアスは泣きそうになった。口内の唾液をすべて飲み込み、トビアスは椅子に座る。
「つまり、制裁されてないかって聞きたいわけ?」
 ジョシュアは涙ぐみながら、頷く。
「されてないよ。懲罰は……知ってるだろ? 規則違反すれば、懲罰部屋へ呼ばれる」
「それはっ、でも、血が出るくらい、過酷な罰を?」
 興奮したジョシュアが声を上げると、レアンドロスが扉を開けて、中へ入ってきた。
「何だって?」
 レアンドロスも興奮した様子でこちらを見つめる。トビアスは肩の力を抜き、ほほ笑んだ。
「ジョシュアの勘違いだと思うよ。でも、裸を見せるのは嫌だ、だって……その、あ、あいつに、れた、きず、がのこって」
 トビアスは徐々にうつむき、涙声になる。義兄エリックにつけられた傷痕を見られたくないと言えば、ここで脱ぐことを強制されないと考えた。案の定、レアンドロスがすぐに抱き締めてくる。
「分かってる。言わなくていい。ジョシュア、本当に血痕だったのか?」
 レアンドロスが少し責める口調で問うと、ジョシュアはくちびるを噛んだ。
「……ちゃんと確認はしていません。でも、王子もお気づきでしょう? トビアスがプリフェクトに呼び出しを受ける回数は、尋常ではありません」
 トビアスはレアンドロスの胸の中でうつむいてたため、彼の表情までは見えなかった。
「分かってる。そのことは再度、学長へも確認しようと思っていたところだ。トビアス、午後の授業が終わったら、一緒にチャールズ先生のところへ行こう」
 養護教諭の名前を出され、トビアスは首を横に振る。
「トビアス」
 レアンドロスは強引ではないが、彼の中で決定したことを覆す気はないらしい。
「俺に体を見せる必要はない。先生に見せるんだ」
 食事にしよう、とレアンドロスは手を引く。その手は心強いはずなのに、トビアスはひどく不安を感じた。
 養護教諭はノースフォレスト校の人間だ。診てもらった後の診断書には事実とは異なることを書いていた。オーブリーのような教師は困るとも言っていた。
 トビアスは握られた手へ視線を向けた後、周囲を見渡す。嫉妬と憎悪の瞳が向けられている。レアンドロスが王族であることを改めて意識する。自分のような人間が触れるなんて、と思った瞬間、手が離れた。
「軽めのものがいいか?」
 トレイを持ったレアンドロスは、トビアスのために食事を選ぼうとする。彼は彼自身のトレイも持たず、デザートまで取って会計を済ませた。
「あんまり食欲ない」
 椅子を引いてくれたレアンドロスを見上げると、彼はトレイからフォークを取る。
「一口ずつでもいいから」
 フォークを受け取り、トビアスはトマトを口へ運ぶ。王子に給仕させてる、というささやきの後、母親と同じだと言う言葉が聞こえた気がした。

16 18

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -