vanish36 | ナノ





vanish36

 日曜は何事もなく過ぎ、月曜は早朝からタカが仕事に出た。慎也が起床した時、彼の姿はなく、いつの間にか布団の上で寝ていた慎也は、奥の部屋からリビングへ移動した。
 まだ体がだるい気がした。テーブルの上にメモと五千円札と家の鍵が置いてあった。メモには読みづらい字で、帰りは十八時頃になること、昼はちゃんと食べること、そして、下着などの必要な物を買ってくること、と書いてある。
 慎也は少し笑った。要司もそうだが、タカも面倒見がいい。下から慕われるのがよく分かる。洗面所で顔を洗った後、鍵と五千円札を持って家を出た。以前、要司と行ったコンビニまでぶらぶらと歩く。
 仕方なかったから、庭先にあったサンダルで家を出たが、仕事の面接に行く時にこのサンダルでは行けない。仕事に就く前に借金だらけになりそうだ。
 コンビニでサンドイッチと下着を買い、部屋に戻った慎也は、布団を干すのに絶好の天気だと気づいた。奥の部屋からベランダへ布団を干した後、キッチンに溜まっている洗い物を始めた。
 家事をしながら、慎也は父親が再婚する前の生活を思い出した。再婚するまでは父親ともそれなりにうまくいっていたのに。そう思うと、涙があふれる。
 タカが帰ってくるまでまだまだ時間はあったが、彼に裸を見られるのが怖くて、慎也はシャワーを浴びてしまうことにした。新しく買った下着とともに洗面所へ向かう。裸になって左腕の包帯を見た時、包帯を買ってくるのを忘れていたことに気づいた。
 シャワーを浴びた後、慎也はまた外へ出た。コンビニを越えて駅の周辺まで行くと、ドラッグストアが見えてくる。そこで包帯と消毒液をかごに入れ、頭痛薬を選び、レジのそばにあった文房具コーナーで立ち止まった。
 慎也はカッターナイフを手に取り、それをかごに入れるかどうか迷った。これからの生活にこんなものは必要ない。そう思い一度は手に取ったものを元へ戻す。

 買い物袋から消毒液を取り出し、左腕の袖を上げた。ティッシュへ染み込ませた消毒液を傷口に当てる。出血はないから、そのまま包帯を巻いた。頭痛薬はタカに買ってきてもらった分がまだあるから、新しく買った分は隠しておいた。それから、カッターナイフを手にする。
 結局、買ってしまった。罪悪感に苛まれながら、それをパッケージから出す。乾いた音とともに鋭く光る刃先が出てくる。慎也はしばらく眺めた後、それも隠しておいた。

 もともと家事は嫌いじゃない。冷蔵庫の中にあったもので夕食の準備を済ませた慎也は、タカが帰ってくるのを待った。予定の時刻より一時間ほど遅い時間に帰ってきた彼は、鍵を置いて出ているため、インターホンを鳴らす。慎也はそれを聞いて、扉を開けた。
 タカと要司は同じ事務所で働いているが、日によって向かう場所が異なると聞いたことがある。タカのうしろにいる要司の姿を見つけて、今日は同じ現場だったのかと思った。
「お帰りな……」
 言葉が途切れたのは、要司のうしろにいた葵の姿が視界に入ったからだ。
「ただいま」
 タカと要司が中へ入る。
「あ、お義兄さんもどーぞ」
 タカがそう言って中へ招き入れた。慎也は青くなったが、葵は優しい笑みを浮かべていた。
「大丈夫、慎也?」
 葵の言葉に慎也は頷くしかない。予想よりもはるかに早く見つかってしまった。リビングへ入ったタカが、あり合わせの夕食に感嘆する。
「ありがとうな」
 葵の視線が痛い。うつむいていると、葵が今日、事務所に来たことをタカが話し始めた。

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