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vanish35

 タカの部屋へ入ると、彼が突然、強い力で肩をつかんで慎也の体を壁に押しつけた。
「夢、どうしたんだ?」
 最初は何を言われているのか分からず、慎也はタカを見つめていた。
「建築家になる夢」
 慎也はうつむいた後、顔を上げて笑ってみせた。
「諦めました」
「何でだ?」
 タカの手が肩に食い込む。
「俺、本当にもともと勉強は好きじゃないし、早くあの家、出たいから……」
 嘘じゃない。だが、タカはまだ慎也を解放しない。
「これは?」
 タカがくちびるの端の傷に、要司と同じように触れる。慎也は身をすくませた。
「要司についた嘘と同じ嘘はつくな」
 慎也が言う前に、そう言われて、黙り込むしかない。沈黙に負けたのは慎也だった。
「……お父さんは、俺に興味がないんです。お義母さんは受験に失敗ばかりの俺を、俺を」
 言葉に詰まった慎也は、涙でにじむ視界でタカを見た。彼にもすべてを話せるわけがない。葵とのことを話したら、きっと気持ち悪いと思われると考えた。
「あの家じゃ、俺は認めてもらえない。働きたいんです。今すぐに」
 涙を流しながら、タカへ自分の気持ちを訴えると、彼はようやく手を放した。
「分かった。だけど、なら、まずは体調管理しろ。おまえ、自分のことちゃんと見たか? すっげぇ顔色悪いし、やせ過ぎだ」
 リビングにはまだ電気カーペットが敷かれていた。
「俺、風呂入るけど、いつもシャワーなんだ。沸かしてやろうか?」
 慎也は首を横に振り、ひとまず腰を落ち着けた。
「おまえさ、しばらくはここにいろ。仕事見つかっても、貯金しないと、すぐには部屋も借りられないからな」
「はい。あの、俺、仕事始めたら、絶対家賃とか払います。それまでは迷惑をかけますが、よろしくお願います」
 頭を下げると、タカは苦笑した。
「そんな改まらなくていい」
 タカがシャワーを浴びている間、慎也は家に帰った葵がどんな行動に出るか考えた。明日は日曜だが、明日にはもう要司の家にまでたどり着きそうだ。
 その時、自分はどんなふうに何を言えばいいんだろう。要司は自分の味方でいてくれるだろうか。
 体がだるくなり、慎也はそっと体を横にした。眠気はまったくないのに、頭痛と吐き気がひどい。目を閉じてじっとしていると、シャワーを浴びたタカが声をかけてくる。
「どうした? 気分、悪いのか?」
「ちょっと頭が痛くて……」
「ひどいなら、頭痛薬、買ってくるから、遠慮しないで言えよ」
 タカの言葉に頷き、慎也は額に腕を当てて、深呼吸を繰り返した。どれくらいそうしていたのか分からないが、込み上げてくる吐き気を感じて、急いで起き上がる。
 トイレまで駆け込んで、胃の中のものを吐き出した。それでも頭痛は続いており、慎也は涙を拭う。
「大丈夫か?」
 キッチンから来たタカが心配そうにトイレをのぞき込んだ。
「薬、買ってくるから、もう少し休んでろ」
 自分の体に何が起こっているのか分からないが、慎也は葵から渡されている薬を持ってくればよかったと思った。精神安定剤と聞いていたが、あの薬を飲めば、すぐに眠ることができる。
 十数分で戻ってきたタカから市販の頭痛薬を受け取った慎也は、こっそり四錠飲んだ。倍にしておけばすぐに効くと考えたからだ。
「何でもいいから、腹に入れないと」
 キッチンから振り返ったタカは、慎也がすでに薬を飲んだことを知り、小さく溜息をこぼした。
「胃が荒れるぞ」
「食欲ないです。大丈夫です」
 目を閉じて、しだいに弱まる頭痛に安堵した。タカが、そこで寝るなと言ったが、慎也はもう意識を浮上させることができなかった。

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