falling down16 | ナノ





falling down16

 ネクタイを結び直したトビアスは、懲罰部屋から出て、まっすぐに寄宿舎へ向かった。先週、全国試験の結果を受け取ったが、真っ先に知らせたい人間はもういなかった。Aランクで受かったからといって、必ず大学へ進学できるわけではない。母親の言う通り、学費を払ってくれる相手が必要だ。奨学金のことも調べたが、ノースフォレスト校に在籍している時点でその対象者にはならない可能性が高かった。
 トビアスは視界の先にトミーを見つけた。今学期に入ってから、トミーとは一度しか話していない。夏季休暇中、レアンドロスと過ごしたことを怒っているらしく、あいさつをしても無視されていた。トビアスは左手側へ曲がり、中庭を通る。トビアスにはトミーが怒る理由が分からなかった。
 他の生徒達も怒っていたが、それは自分がレアンドロスに近づいたからだ。制裁はもちろんあった。最後の二年は六人部屋ではなく、二人部屋に振り分けられる。
 レアンドロスは学長へ、トビアスと同室にして欲しいと直談判したが、希望は通らなかった。寄宿舎へ戻り、部屋へ荷物を置く。
 トビアスは夕飯を食べた後、こっそり寄宿舎を抜け出していた。先ほどの呼び出しは、消灯時間になっても部屋に戻らなかった、と同室者がプリフェクトへ報告したためだった。
 夕食を取り、シャワーを浴びたら、トビアスは部屋を抜け出して礼拝堂へ行く。夕方以降は施錠される扉をこっそり開けて、中へ入り、天井部を支えるために伸びた支柱のいちばん左奥へと進んだ。祭壇の前から右手奥に視線を移すと、至聖所があり、そこには電気がない時代には蝋燭が主流だった常夜灯が並んでいた。
 トビアスは説教台をずらして、持参してきた毛布で自分を包んだ。そのまま横になり、目を閉じる。寄宿舎の部屋では眠ることができない。制裁は部屋か懲罰部屋で行われていた。

 レアンドロスは可能な限り、トビアスのそばにいる。彼がいない時はジョシュアがいた。母親の離婚裁判が示談で解決したという話を聞き、トビアスが安堵した表情を見せると、彼はそっと抱き締めてくれた。安堵したのは、マクドネル家と付き合いのある連中へ体を差し出す必要がなくなったからだったが、彼は義兄エリックによる暴力にさらされることがなくなったからだと思ったらしい。
「ビー、卒業したら、この国を出て、イレラントへ来いよ。一緒に大学へ行こう?」
 トビアスはレアンドロスの背中へ手を回す。
「いいけど、養育費がもらえるの、十八までだから、難しいかもしれない」
 困惑した表情で言えば、レアンドロスは苦笑した。少し屈んで左のまぶたにキスを落としてくる。
「金の心配はするな。奨学金制度もあるし、俺から直接、借りるっていう手もある」
「レアから? 利子はどれくらいつく?」
「一日一回、君からキスしてくれたら利子はつけない」
 淡いブルーの瞳が優しく輝く。冗談だと分かっていても、トビアスは泣きそうになった。将来のことを考えられなくなっていた。今していることと、これまでしてきたことは同じだ。ただ対象が違うだけだ。レアンドロスに好意を持っている。その純粋な気持ちを自分で汚している。もし、イレラント国で学ぶなら、すべて自分が用意した金でなければ意味を成さない。
 昼休憩の時間を告げるベルが鳴り始める。二人は音楽室にいたが、外からノックが聞こえてきた。
「ジョシュアだ」
 レアンドロスが扉を開く。ジョシュアの他にも、いつもランチを一緒に取っている生徒達がいた。
「食堂、行こう?」
 振り返ったレアンドロスに頷くと、ジョシュアが、「先に行ってください」と中へ入ってきた。
「トビアスに少し、話があります」
 ジョシュアは眉間にしわを寄せており、レアンドロスは、他の生徒達を先に行かせた。
「レアンドロス王子、あなたもです。先に行くか……扉を閉めて、外で待っていてもらえませんか?」
「どうして?」
 ジョシュアはレアンドロスを振り返らずに言った。
「そのほうがいいからです」
 トビアスはジョシュアの瞳を見つめ、小さく息を吐く。
「レア、先に行って」
 レアンドロスは渋々と扉を閉めたが、先に行った様子はなく、扉の外で待機していた。

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