あいのうた番外編10 | ナノ





あいのうた番外編10

 身に着けていたものをすべて脱いだ時、尊は未来も裸体でいることに安堵していた。恥ずかしいという気持ちよりも、互いに同じ格好をしていることが、今からする行為の意味を教えてくれる。未来は初めてではないようだった。とても落ち着いた様子で、熱を刺激するような愛撫を続ける。
 尊は声をこらえていたが、未来の指先が胸の突起に触れた時、思わず声を出した。未来は手を止めることなく、そのまま尊のペニスをなぞる。
「っん、ぅ、あ」
 未来が頬へ音を立てながらキスをした。すでに十八時を回るところだが、夏に向けて陽は長くなっている。尊の視界には涙の筋を残す未来が見えていた。どうして泣くのか、尋ねる前に、彼はくちびるを重ねる。互いの先走りで濡れた指先が、アナル周辺を擦った。彼の唾液も飲み込みながら、尊はゆっくりと呼吸を繰り返す。
「尊さん」
 その声に集中した瞬間、未来の指がアナルの中へ入った。先走りで濡れた指先が、徐々に奥へ進んでいく。痛くないか、と聞かれ、尊は首を横に振った。ちゃんと準備をしてもらえるのは、ずいぶん久しぶりだ。その手が好きな人の手だと思うと、感極まって涙があふれた。
「尊さん?」
 泣き始めた尊に、未来が指を止める。
「だいじょ、うぶ。ごめ、なんか、ゆめ、みたいで……」
 本当に夢ではないかと思った。だが、未来がいつものように笑みを浮かべて、耳たぶをくちびるで食む。ささやく言葉に頷くと、未来はコンドームを手にした。ほんの少し、先が入っただけで痛みがあったが、尊は表情に出さず、ただ未来のことを見上げた。彼の苦しさと切なさが混じったような顔を見て、その双眸が自分だけを愛しそうに見下ろすのを見て、すでに何度も実感していた愛されているという感覚で満たされた。
 尊は自らの腕を未来の肩へ回した。未来の動きに合わせて、浅い呼吸を繰り返す。アナルを犯されて快感を得ながら、尊は体も心も満たす彼の名前を呼んだ。頭まで突き抜けるような甘い心地よさに射精すると、少し遅れて未来も精を放つ。
 正面から抱き締めるようにして、未来がベッドへ横になった。尊の腹の上や股の間は濡れているが、未来は気にしていない。何度もついばむようなキスをくちびると頬に受けた。
「幸せ過ぎて泣けてきます」
 未来は実際に泣いていた。そんなふうに言われて、尊も笑みを見せたが、すぐに目が熱くなり、涙がこぼれた。汗ばんだ体から熱を共有する。尊は未来の肩へ額を当てた。
「あなたの傷を癒すとか、治すとか、そんな大それたことはできないけど、俺、傷痕の残ったままの尊さんのこと、きれいだと思ってます。全部、そういうの含めて好きです」
 大きな手が肩から腰をなでていく。もう二度と恋はしたくない。失うことが怖くてしかたなかった。だが、手にしているものが何もない状態で、失うことを心配するのは馬鹿げている。顔を上げて、未来を見た。尊が手にした愛は、尊のことをつかんで離さない。
「……今度、犬を見にいこう?」
 引っ越してきた当初、落ち着いたら動物愛護センターから犬を引き取ろうと話をしていた。尊の体調や精神状態を慮っていた未来は、犬を飼うという願いをずっと後回しにしてきた。この一年ほどは尊自身、クリニックへ行く以外に外出していない。瞳が大きく見開かれた後、彼は目尻にしわを寄せ、破顔した。
 大切な人を幸せにする力がある。尊は自分をつかんで離さない未来の手へ口づけた。失うことを心配するのではなく、自分も彼の手を離さないために強くなろうと心から誓った。

番外編9 番外編11(番外編10から1年後/未来視点)

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