あいのうた番外編9 | ナノ





あいのうた番外編9

 夕飯の準備をしていると、電話が鳴った。未来は庭で水やりをしていた。尊は厨房からリビングへ行き、受話器を上げる。
「もしもし?」
 電話に出たら、未来が中へ入ってきた。
「誰ですか?」
 未来の言葉に集中してしまい、相手の声を聞き逃したが、未来あてだということは分かった。
「少々、お待ちください」
 保留ボタンを押して、尊は謝りながら、受話器を差し出す。
「ごめん、たぶん先週と同じ人だと思う」
「すみません」
 未来は受話器を受け取ると、二階へと上がっていった。気になって、尊はそのままリビングのソファに座った。ローテーブルには小さな花束が花瓶に生けられている。
「尊さん?」
 左からうしろを振り返ると、受話器を持った未来がソファを周り込んで座る。少し疲れているように見えて、「仕事?」と尋ねた。未来は一瞬、迷ったように視線を動かす。言いにくいことなのかと思い、話さなくてもいいと言おうとした。
「デザインの仕事じゃなくて、雑誌のインタビューなんです」
 未来は小さく息を吐く。
「断ってるんですけど、なかなか諦めてくれない」
「どうして……」
 断る必要があるのか、と思ったが、よく考えれば自分のためだ。ここへ知らない人間が来るのは嫌だ。だが、未来が長時間、どこかに出かけるというのも、これまでなかった。
「未来、俺のことは心配しないで」
 最近の精神状態はとてもいい。同棲していても四六時中、一緒にいるわけにはいかない。半年ほど前から睡眠導入剤の量も減っている。自分はもうほとんど立ち直っていると思っていた。そっと伸びた未来の右手が、尊の左手に絡む。
「俺が離れたくないんです。ここへ来られるのも嫌だ」
 絡んだ指先を持ち上げて、未来が手にキスをする。こちらを見てくる瞳に胸がぎゅっとなった。愛されている。そう感じる。触れてもいいか、と聞かれ、頷いた。未来の左手が頬に触れてくる。指先が頬から鎖骨へ下りた時、体がはねた。
「尊さん」
 優しく名前を呼ばれて、目を開く。未来は体を抱き寄せて、頬にキスを落とした。体は反応している。もう平気だと思っている。だが、尊は腕を伸ばして、未来を試すように、「嫌だ」と拒絶した。彼はすぐに手を止める。ジーンズの中で硬くなったペニスに視線をやった。いつものように、「ごめん」と言って立ち上がって、二階へ向かうことができなかった。座り込んだまま、尊は涙を流す。
 未来は何も言わずに抱き締めてくれた。この繰り返しのせいで、恋人を傷つけてきた。未来は変わらない。尊は未来の背中へ手を回す。
「何度でも……俺は何をされても、何も言われても、あなたから離れません」
 あなたを愛しているから、と続く言葉に、尊は未来のことを強く抱き締めた。ほんの少し勇気を出せば、きっと最後までできる。そう思って、尊は未来の頬に自ら口づけた。涙を拭いて、もう一度、今度はくちびるへキスをする。かすかに動いた未来の体に、ゆっくりと目を開けた。彼の瞳が確認するようにこちらを見ている。尊は小さく頷いた。
 未来が尊の体を横抱きにして、階段を上がる。彼のベッドの上に下ろされ、左手に右手が絡んだ。尊は目を閉じて、そっと開く。
「今ここでやめろって言ってもいい。あなたを怖がらせたくない」
 握られた手が熱い。額がつきそうなほど、顔を寄せた未来が、耳のピアスへキスをくれる。くすぐったくて、身をよじると、彼は体を離した。
「未来」
 やめなくていいという意味を込めて名前を呼んだ。離れない手を握り返して、自分はただ時間が欲しかっただけだと理解した。あの夜から恋人と別れるまでの時を超えて、それでも未来はやわらかなキス一つで笑みを見せてくれる。頬に伸びた手が、背中へ回った。

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