あいのうた番外編11 | ナノ





あいのうた番外編11

 セミの大合唱から逃れるように家へ入った未来は、冷房の効いているリビングの涼しさに息をついた。仕事部屋をのぞく前にリビングへ行くと、ソファの上で眠っている尊が見えた。彼の腹の上には柴犬のマメが同じように眠っている。未来はソファの手前でうずくまり、尻尾だけ振って見せたシェパードのクロの頭をなでる。動物愛護センターから引き取った二匹は、当初はなかなか慣れず、世話も大変だった。
 だが、今はもう家族同然だ。飼い主の都合で捨てられたり、手放されたりして、心を閉ざした彼らが自分自身と重なるのか、尊は献身的に面倒を見ていた。道の駅へ手作りパンを提供していた尊は、マメとクロを引き取ってからは、衛生上、厨房で作ることをやめ、週三回、道の駅のそばにあるパン屋でアルバイトを始めた。
 未来はずり落ちそうになっている足元のブランケットをかけ直す。尊の日焼けしていない肌は白く、思わず頬に指先を伸ばした。すぐに目を開けた尊が、一瞬、不安げな表情になる。
「あ、起こしちゃいましたね。すみません」
 尊は腹の上にいたマメを抱えながら、起き上がる。
「こっちこそ、ごめん。ちょっと休もうと思ったら、完璧に寝てた」
 マメが尊のひざから下りた。
「お茶します?」
 朝から出かけていた未来は、まだ昼食を済ませていない。立ち上がった尊が、厨房にある冷蔵庫からサンドウィッチを運んできた。
「これ、食べる?」
 オレンジジュースをグラスへ注ぎ、未来は尊手作りのサンドウィッチを頬張った。カウンターに並んで座ると、懐かしい感覚になる。ジュースを飲んだ尊が、マメとクロを愛しそうに見つめていた。今もまだ睡眠導入剤を服用しているものの、以前よりもずっと穏やかな雰囲気になった。
 運転の練習はしたが、一人で運転するのは怖いと言う尊のために、未来がパン屋まで送迎している。人間関係がストレスにならないか心配だったが、それは杞憂に終わった。意外に自分のほうが気難しいかもしれないと思う。芸大の時の友人達とは全員、連絡を絶ち、つながりがあるのは叔父と仕事関係の人間だけだ。
「足りなかった?」
 こちらへ視線を戻した尊が空になった皿へ手を伸ばす。未来はその手を握った。
「足りないです」
 尊の体を引いて、自分の腕の中へおさめる。冷房を入れていない二階は暑いが、どうせ汗をかくのだから、と未来は尊の体を抱えた。
「え、未来?」
 尊は驚いた様子だったが、階段を上がり始めると何をするのか分かったらしく、大人しくなった。室内は窓が開いていた。尊をベッドへ下ろし、窓を閉め、冷房のスイッチを入れる。ナイトチェストの引き出しからジェルとコンドームを取り出した。
「シャワー、浴びたほうが」
 言いかけた尊のくちびるをふさぐ。
「すぐに汗、かきますよ」
 シャツを脱ぐと、尊も脱ぎ始めた。初めて体をつなげてから一年以上経つが、言葉にしなくてもしだいに二人だけのルールができた。その一つが、服は自分で脱ぐことだ。おそらく尊は脱がされることに恐怖を感じるのだろう。何でもないようにふるまっているが、目に見えない傷痕はずっと残り続ける。それでも、彼は自分のためにこうして自らをさらけ出してくれる。
「尊さん」
 汗でべたついていたが、未来はかまわず抱きついた。尊が小さな声で笑う。緩く波打った耳までかかっている髪を指先でいじりながら、彼の笑顔を見るためなら、他の何もかもを諦めてもいいとさえ思った。
 未来は尊のことをそっと押し倒す。きらきらと光ったピアスに、キスをした後、愛の言葉をささやいた。同じ言葉を返してくれた彼に、今度は言葉ではなく、行為で伝えるため、未来は彼の肌へ指を滑らせた。

番外編10

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