あいのうた番外編7 | ナノ





あいのうた番外編7

 奥村が持たせてくれた煮物を一品として加え、夕飯を食べ終わった尊は、未来がすると言った洗い物を済ませた。バスルームは二階にある。シャワーを終えた未来が下りてきて、厨房へ来た時、彼は、「あ」と声を出した。
「俺がするって言ったじゃないですか」
「昨日、してくれたから、今日は俺がしようと思って」
 未来は肩をすくめ、口をとがらせる。厳密に家事の分担をしているわけではない。だが、未来がすると言ったことを先回りして済ませると、彼はたいてい嬉しくなさそうだった。そのあたりの心理が、尊には分からないのだが、奥村の話だと、未来はもっと自分に頼って欲しいらしい。
 すでに頼り過ぎて依存している気さえしているのに、これ以上、頼るというのは考えられない。尊は冷蔵庫を開けて、昨日作っていたプリンを取り出した。
「たまには俺もするよ。シャワー、浴びてくる」
 甘いお菓子が好きな未来は、プリンを見ると顔をほころばせた。
「はーい。下でテレビ見てますね」
 尊が一人になることを恐れるようになってから、いつもどこで何をしているのか言うようになった。尊は階段を上がり、寝室へ入る。下着と半袖のTシャツとゴムになっている古いズボンをクローゼットから探した。
 家の中では肌を隠さなくなった。ベッドの間に置いていたナイトチェストも、未来のベッド側に寄せてある。隙間のない二つのベッドを見て、尊は未来に寄りそう自分を想像した。どんなに体重をかけても、重いとは言われず、自分のほうへ引き込もうと引っ張っても、彼の場所まで引き上げられる。

 風呂から上がった尊は髪を乾かしながら、鏡に映る自分を見つめる。以前は自分を見ることはほとんどなかった。未来と暮らし始めてから、彼がきれいだと言ってくれるためか、意識して鏡を見ることが増えた。取り外していたピアスをつけて、下へ向かう。壁面にあるテレビを見ながら、ソファでくつろいでいる未来が笑い声を出した。
 未来の存在に胸が温かくなる。家の中で感じる未来の気配は、尊を安堵させてくれる。尊は未来の隣に座り、バットのまま渡していたプリンへ手を伸ばした。
「すごくおいしいです」
 未来は手にしていたスプーンをこちらへ差し出す。自分のスプーンくらい取ってこようと思ったが、せっかく差し出してくれているのに、自分用のものを取りにいけば、潔癖症だと疑われるかもしれないと思い、尊は礼を言って彼のスプーンを借りた。間接キスを恥ずかしいと考える年齢でもない。
 くちびるにされそうになった時、避けてしまった。それから、キスは髪か額か頬、あるいはピアスにしかしなくなった。体に触れる時は必ず触れてもいいかと聞いてくる。未来のことを怖いと思ったことはないが、突然うしろに立たれたり、腕を引かれたりするのは嫌だった。もちろん、彼はそれを理解していて、尊が怖がることや嫌がることはしない。
 番組が始まり、未来がまた笑い声を立てる。彼はリラックスした様子で、足を伸ばしていた。彼のことを見つめていると、視線に気づいた彼が首を傾げる。
「尊さん、どうかしました?」
 尊は首を横に振り、素直に口を開く。
「何でもない。ただ、かっこいいなって思って見てただけ」
 未来の外見からして、そんなことは言われ慣れているだろうに、彼はいつも頬を染めて照れる。それが何だか可愛らしくて、尊は自ら手を伸ばした。数日前に剃ったと言っていたが、生えかけている無数のヒゲが指先に刺激を与える。彼が目を閉じた。尊はくちびるへそっと触れる。
 尊は自分のペニスが反応するのを感じた。うろたえたりはしない。未来のことが好きだから、彼が気持ちよさそうにしていれば、当然、尊の欲にも火が灯る。指先をくちびるの間へ入れて、彼の熱い舌へ指を絡ませれば、きっと互いの熱を交わらせることができる。だが、これ以上は怖くて進めない。彼の中心も大きくなっていた。恋人同士だから、普通のことだ。そう思っても、誰かの手によって欲望を吐き出すくらいなら、自分の手でしたほうがいいと思えた。
「……ごめん」
 尊は手を引く。毎回こうして失敗して、二階のトイレで抜いた後、尊は睡眠導入剤を飲んで眠る。一人残された未来も彼自身の手で処理しているだろう。ただ一つの救いは、未来がまだ、「いい加減にしろ」と怒鳴らないことだ。未来は彼とは違う。ひたすら待ち続けてくれる。

番外編6 番外編8

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