falling down9 | ナノ





falling down9

 うしろから貫かれていたトビアスは、相手のペニスが抜けた感触に顔をベッドへ埋めた。相手はシャワールームへと消えたが、トビアスはそのままベッドの上で目を閉じる。動きたくても、両足首をベッドの足に拘束されており、うつ伏せでいることくらいしかできなかった。部屋はホテルのスイートルームで、トビアスはここで二十四時間、一日も外出しない生活を送っている。
 一日一回、清掃が入る時だけ、隣のベッドルームへ移動させられた。相手は数日同じ場合もあれば、一晩で変わることもある。だが、トビアスにとっては誰でも一緒だった。罵る者もいれば、道具を使って痛めつけてくる者もいて、その時に出す叫び声以外、声を出すこともない。
 トビアスは無意識に足を閉じようとしたが、左右それぞれに開かされている足は拘束具のせいで閉じることができなかった。鼻から小さく笑い声が漏れる。それは自分を嘲笑うものであり、ブラウンの瞳からは涙があふれ出す。シャワーを終えた男が、鞭の痕を濡れた手でなでた。男の前に相手をした人間がつけた痕だった。ひりひりと痛む臀部をなでた男は、「物欲しそうにしてるな」と言い、バイブレーターをトビアスのアナルへ突っ込んだ。
 両腕を手錠で拘束され、トビアスは男を睨んだ。助けて、と言うことはない。その言葉がどんなに無意味か、身をもって知っている。男は着替えを済ませて、部屋を出ていく。トビアスはベッドの上で悶えながら、時計を見つめた。清掃が入る時間まで六時間ほどあった。
「っん、う」
 アナルに入ってるバイブレーターは太股に回り込むようにしてストッパーが付いており、少々乱暴に動いても抜け落ちることはない。男とのセックスで疲れ果てていた体に、さらなる負担がかかっていく。いくらトビアスが若いといっても、連続で射精するのはきつい。
「ッウ、ン、ん」
 腕を伸ばしてバイブレーターを取り出したいが、うしろ手に拘束されていては、自分で取り出すのは不可能だった。動くとバイブレーターが前立腺へ当たり、ペニスが震える。トビアスは体をのけぞらせ、苦しいだけの吐精をした。外には世話役と見張り役を兼ねた男が立っているが、清掃の入る時間が迫らなければ入ってこない。もし、入ってきたとしても、その男がこの苦しみから救ってくれる可能性はなかった。
 腰を動かしながら、トビアスはもっと辛かったことを考えた。今、置かれている状況より辛いことを思い出し、それに比べたらましだと思えれば慰められる。
「っ……」
 ぐっと後頭部を押されて、トイレの便器へ頭を入れられた。
「きれいな顔が自慢なんだろ?」
 寄宿舎のトイレでまわされた時のことを思い出した。レアンドロスに声をかけられて、調子に乗るなと注意された。頭を便器の中へ突っ込まれたまま犯され、何度も汚いと罵られた。その汚い自分に突っ込んで、射精してるのは誰だと言い返したら、思い切り股間を蹴り上げられた。叫び声を上げる瞬間、レバーを引かれ、水が流れていく。
 今がずっと続くわけではない。彼らの中の大多数が、成功者として何もかもを手に入れていく。その時、自分は何になっているだろう。消えそうになっていたトビアスの手に、オーブリーはコスモスの栞を握らせた。彼のように穏やかな熱意を持った教師になるのが夢だった。
 トビアスは涙でシーツを濡らしながら、混濁する意識の中で、「せんせいみたいになりたい」と繰り返す。本人を前にしては言えない夢だ。父親を知らないトビアスにとって、オーブリーは理想の父親像そのものだった。

「トビアス!」
 トビアスは母親の声に目を開けた。赤いトップスの胸元はドレープがきき、豊満な胸が強調されている。
「先生、先生って言ってたけど、教師とだけはやめてよ」
 蔑む視線を受けて、トビアスは時計を見た。清掃が入る一時間前だ。
「ちょっと、早くこれ取って」
 外にいた世話役の男が、拘束具やアナルに入っていたバイブレーターを取り外す。トビアスは何の感慨もなく、空を見つめていた。初めてアナルを犯された後、泣いていた自分に、「女だってそこまで泣かないわよ」と言って頬を叩いた女性だ。いまさら、この状況を見られて恥ずかしがっていては、馬鹿にされるだけだろう。拘束具が消えても、ぼんやりとしていたら、彼女は頬を叩く。美しく手入れされている爪が頬を引っかいた。
「ぼやぼやしない。ほら、シャワー浴びて」
 クリーム色で統一されたバスルームへ放り込まれ、トビアスは冷たいシャワーを手のひらへかける。
「イレラント国なんて自然ばっかりで、つまらないところでしょうけど、資源が豊富だから、財政は豊かみたいね。第一王子は優秀らしいじゃない」
 彼女は唐突に笑った。

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