あいのうた番外編4 | ナノ





あいのうた番外編4

 尊が抱えていた過去を聞いた後、未来にはどんな言葉も残されていなかった。見知らぬ男達から受けた暴行、元恋人との関係がしだいに壊れていく様を、尊は淡々と話した。そして、最後に彼は、いつか自分達の関係もそうなるのが怖いと言った。
 未来は必死に嗚咽をこらえていた。自分は元恋人とは違う、と言うだけでは足りない。あなたは何も悪くないと言いたいのに、口にすればすべて安っぽいせりふに聞こえるだろう。それでも、今の自分の気持ちを言葉にしていくことでしか、尊を救えない気がした。怒りと悲しみに打ちひしがれながら、未来は悲愴な表情を浮かべている尊を見返した。
「尊さん」
 俺のこと、抱き締めてください、と言って、未来は毛布とかけ布団をめくり、尊の隣へ入り込む。尊は驚いて上半身を起こした。
「何て言えばいいのか分かりません。ただ……」
 未来は横向けになり、尊の左手を自分の腰へ回した。
「俺にはあなたが必要で、あなたにも俺が必要なんです」
 尊の手が腰の上で動く。未来は彼を抱き締め返した。
「……軽蔑した?」
 未来の胸のあたりでつむじを見せている尊が、小さな声で尋ねてきた。
「してません。信頼して、話してくれて、嬉しいです。すごく勇気がいることだったのに、尊さんは本当に強い人だと思います」
 自分が支えなければと思っていた。だが、それは間違いだった。今までだって、尊は自らピアスをつけると言ってくれた。細々と翻訳の依頼を受けては生活費を稼ぎ、外へ出れば庭の世話をしている。彼はちゃんと彼の世界を持っている。だから、魅かれる。彼のことを愛しいと思う。
「少しだけ、眠ります。今日は俺が、あり合わせクリームシチューを作りますね」
 奥歯を食い縛り、未来は目を閉じる。気を引き締めていないと、泣きそうだった。胸のあたりから広がる、尊の体温を感じながら、自分は眠れるが、彼は眠れないだろうと思うと、閉じていた目を開いてしまう。こちらを見上げている瞳と合い、笑みを浮かべた。
「ほんとだ」
 尊が少し上擦った声を出す。
「こんな俺でも未来のこと、笑顔にできるんだから、お互い必要だって思えるよ」
 健気な尊の言葉に、未来は我慢していた涙をこぼした。いちばん理不尽な思いを抱えているのは尊なのに、それに不平を連ねるわけでもなく、生きている。
「嬉し泣きですから」
 尊に泣かせたと思われたくなくて言えば、彼は、「うん」と頷き、苦笑する。抑えきれず、「愛してます」と告げた。
「それは……俺にとっては永遠を誓う……」
 未来は視線をそらそうとした尊の頬へ触れた。
「誓います。口だけだと思うなら、試してみてください。来年も再来年もずっと一緒に、ここにいる」
 尊の頭へキスを落とす。
「俺も、未来のこと、好きだよ」
 消え入りそうな声で聞こえた尊の、「好き」という告白は、初めてのものだった。先ほどまでの気持ちが嘘のように消え、飛び上がりたい気分になる。顔を胸元へ隠すようにして中へ潜り込んだ尊の頭を見つめながら、少しずつ、だが、確実に、互いの思いが深まるのを感じ、未来はほほ笑みを浮かべた。

番外編3 番外編5(本編前/尊視点)

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