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falling down4

「いいえ、気づいていませんでした」
 トビアスがそう答えると、レアンドロスは少し首を傾げて、こちらをのぞき込むような仕草を見せる。
「敬語」
 敬語は使わなくていいと言われても、一国の王子を相手にそういうわけにはいかなかった。
「社交の場にはよく来るのか?」
 トビアスは、「はい」と頷いた。ただ、トビアスに求められるのは社交性ではないため、こうした質問の後に話が続くことはない。相手の要求に頷くだけだ。あとはベッドの上でその要求を満たせば、トビアスの役割は終わる。
「寄宿舎はどこ?」
「C棟です」
「そうか、離れてるな。今度、ランチを一緒に食べないか?」
 トビアスはレアンドロスを見た。そんなふうには見えないが、彼がからかっているのではないかと疑った。
「食堂のローストチキンサンドをマスタードで食べたことはある?」
「いいえ」
 レアンドロスは笑い、「なら、今度一緒に。すごくおいしいから」と誘った。
「ええ、機会があれば」
 トビアスは椅子から立ち上がった。
「お声をかけて頂けて光栄でした」
 会釈をして、義兄エリックへ視線をやる。彼があごで出入口を示した。議員を待たせている。トビアスはパーティー会場からホールへ出た。議員の待つ部屋までエレベーターで上がり、教えられていた部屋の前で小さく息を吐く。

 すでに何度も心を打ち砕かれていたものの、トビアスは自分がゲイだと自覚している。制服をクリーニングしてくれる業者は、若い女性達を雇っており、衣料品の受け渡し場所である裏門へ行けば、異性と話す機会が持てる。同性ばかりの校内では、唯一、自由に女性と話せる場所であり、ほとんどの生徒達が楽しみにしていた。
 ある程度の年齢になると、週末に外出届を出して、彼女達と会い、初体験を済ませる者もいる。トビアスは周囲がそういった話を盛んにすることじたいが嫌いだった。そのため、その話になった場合、聞きたくないからその場を離れる。生徒達はトビアスが離れるのを見ては、本当にゲイなんだとささやいた。
 トビアスの初体験はとても早かった。十歳の頃から口で奉仕することを仕込まれた。彼らが、女性の体を時に優しく、時に情熱的に抱く話をするたび、自分の惨めさを味わう。ゲイだから、誰とでもいいと思われていることが悔しかった。そして、それを理由に上級生達の性欲処理をさせられるのが嫌だった。
「トビアス」
 シャワーを浴び、準備をして議員の待つベッドへ向かった。トビアスの白い肌にはアザがあり、特に右足は赤く腫れている部分と青く内出血を起こしている部分が目立っている。
「あぁ、君は落ちこぼれなんだな」
 多くの議員がノースフォレスト校出身だった。彼らの時代よりもずっと前から、懲罰部屋行きの生徒はすでに落ちこぼれだと認識されている。
「マクドネル家は代々、優秀だが、君は母親と同じく、勉強より穴に突っ込まれるほうが好きなんだろう?」
 トビアスは、「はい」と答える。議員は下品に笑うと、冷蔵庫から酒を取り出した。彼はボトルの中身をロックグラスへ注ぎ、飲めと命令する。アルコールは苦手だった。一口ですぐに酔ってしまう。初めて飲まされた時、頭痛と吐き気が週明けになってもおさまらず、授業に参加できなかった。だが、二回目を拒否したら、エリックから折檻を受けた。それ以降、トビアスは命令されれば飲むようにしている。
 議員は一口だけだが、きちんと飲んだトビアスに満足したようで、グラスを取り上げた。トビアスはベッドへ押し倒される。
「自分で足を開いて、アナルを見せるんだ」
 すでにアルコールが体内をめぐっていた。トビアスは熱い息を吐きながら、自らの手で足を押さえ、開脚する。議員の手には潤滑剤のボトルがあった。太い指が冷たいジェルとともにアナルを犯す。まだ成長期途中の体はしなやかで、アナルは何度も使い込まれていたが、締まりはいい。トビアスを抱く男達はそう言って、ある者は拡張から楽しみ、ある者はおざなりな準備で無理やり犯すことを好んだ。
「手は足首へ」
 トビアスは仰向けのまま、言われた通り手で足首をつかんだ。開脚した状態で拡張されたアナルをさらし、議員のペニスを受け入れる。
「っアア」
 酒は好きではないが、酔っていれば余計なことは考えずに済む。たった一口で酔えるトビアスは、議員に貫かれ、揺さぶられながら、声を上げた。本当は嫌なのに感じてしまう。男の出張った下腹部の肉に押され、自分のペニスが大きくなっているのを見た。
「あ、いくっ、イッ、アア」
 目を閉じると、くるくると回転するような気分に陥った。底なしの世界へ回転しながら落ちていく自分を想像する。将来の夢は何かと聞かれ、答えられない自分を恥じた。

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