あいのうた番外編1 | ナノ





あいのうた番外編1

 今までは未来が食事を差し入れすることが多かった。引っ越ししてからは尊が食事の用意をしてくれる。これまでカップラーメンや出来合いのものを食べている彼しか知らないから、彼が意外に料理上手なことに驚いた。
 互いに仕事の時間というものが決まっていないため、未来は夜遅くまで起きている。尊は睡眠導入剤を飲んで眠るからか、朝、目覚めるのが未来よりも早かった。ベッドから起き上がると、やはり尊の姿はない。ベッドの間にはナイトチェストがあり、その上に置いてあるメガネを手にした。
 今まではコンタクトレンズだったが、面倒になって家でずっと使用していたメガネ姿になったところ、尊が見惚れていたため、それからはメガネにしている。もちろん、見惚れていたというのは、未来から見て、そう見えただけの話だ。

 階下へ行き、元々ホールだった場所で朝食を並べている尊へ近づく。裏庭側には暖炉があり、温かな炎が部屋中を包んでいた。中は改装していいと大家である奥村に言われていたが、資金面からまだそこまでは手が回らなかった。ゆくゆくはアトリエにしたい、とここを見せてもらった時に奥村へ話すと、彼は、「素敵だと思います」と頷いていた。
 未来が時々、飲みに行っていたショットバー『rouge』で、この物件の話を聞いた。アルバイトの司からオーナーの真斗へ話が伝わり、さらに真斗の知り合いから、物件のコピーが回ってきた。真斗が、「奥村さん、けっこう頑固だって聞いてるけど、事情、話せば貸してくれると思う」と言ったため、未来は最初から奥村へ自分のことや尊のことを話していた。
「おはよう、尊さん」
 怖がらせないように、尊が振り返って自分を認識してから、そっと手を伸ばす。まずは緩やかに波打っている柔らかい髪をなで、額へキスをした。それから、耳のピアスへも口づける。
「おはよう」
 尊はやわらかな笑みを浮かべた。ここへ越してきて三ヶ月、すべてが順調に進んでいるように思える。尊は決して一人で外出しない。年末年始には地区内で集まって宴席が設けられたが、尊は参加しなかった。未来まで参加しないわけにはいかず、あいさつだけは、と一時間ほど出席した。酒を飲んだ未来を送ってくれたのは奥村で、彼は何かと尊の面倒も見てくれる。
 朝食をともにした後は、たいてい庭へ出て土いじりをする。一月のこの季節は積雪もあり、雪かきに追われた。尊が家の周囲とさらに山のふもとに住む奥村の家周辺の雪かきを手伝い、未来は下へ続く隣家の雪かきに手を貸していた。奥村のところは彼のパートナーだと紹介された瀬田が、ほとんどの力仕事をこなしている。尊は瀬田とも打ち解けている様子で、未来はここへ来て本当によかったと考えていた。

 仕事は互いに昼食後から始めて、夜まで長引くこともあった。未来はジュエリーデザインに留まらず、小物のデザインも請け負う。広いホールのため、間仕切りで仕切って、一緒の空間だが、別々の部屋のようにした。時々、尊が英文を読み上げる声やキーボードを叩く音を聞いていると、自分も頑張ろうと思う。
「尊さん」
 仕切りの上から、隣をのぞいた。こちらを向いた尊に笑いかける。
「コーヒー、いれましょうか?」
 頷く尊に、未来はコーヒーミルで豆をひく。尊は甘党ではないが、コーヒーに甘い菓子を添えて出すと必ず食べていた。冷蔵庫を開け、昨日、奥村からもらったチョコレートタルトを取り出す。奥村は焼き菓子が得意らしく、四人分がちょうどいいから、といつも半分、分けてくれる。
 休憩を入れる時は間仕切りをずらして、暖炉の前で向かい合うようにして座る。熱いコーヒーを一口飲んだ尊が、嬉しそうに笑った。
「おいしい」

28 番外編2

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