あいのうた21 | ナノ





あいのうた21

 尊は中嶋との約束を思い出す。未来の母親の言葉が聞こえてくる。かつての恋人はあの部屋で女性とともに住んでいる。もしも、自分が彼を好きになっていなかったら、彼は普通に結婚していたかもしれない。遠回りさせたのは自分だ。
「尊さん」
 抱き寄せようとした未来の手を振り払った。何度も過ちを繰り返すことはできない。尊は涙のあとを擦った。
「橋口君からもらったピアス、高く売れたよ」
「え?」
 未来の瞳が大きく開かれる。
「俺と一緒になりたいなら、デザイナーとして成功してからにしてくれないかな? だから、歳下は嫌なんだ。襲われたなんて嘘、信じて、若いね。お金に困ったから、ちょっと遊ばせただけっぅ、ん、っん」
 未来がとつぜん肩を押さえて、布団の上へ押し倒してきた。パニックになる前にキスをされる。熱い舌が歯列をこじ開け、尊の舌へ絡んだ。
「っう、ン」
 やめろ、という心の叫びは、未来が口にした。
「やめてください」
 尊の顔にぱたぱたと水滴が落ちてくる。肩を押さえていた未来の手が、尊の手に触れた。
「どうしてですか?」
 こんなに震えているのに、と未来が泣きながら抱き締めてくる。自分を傷つけるのはやめてください、と懇願された。
「尊さんが好きです」
 手が引かれて、押し倒されていた体がすっぽりと未来の腕の中へおさまる。彼の熱に触れたくて、尊はそっと額を彼の肩へ当てた。未来なら、と考える。未来となら、やり直せるかもしれない。
 尊が左手を未来の背中へ回そうとした時、インターホンが鳴った。踏み出そうとした勇気が消え去る。もうすぐ昼になる時間だった。
「俺が出ますね」
 涙を拭い、照れた笑みを浮かべた未来が立ち上がる。
「待って」
 尊は慌てて、未来の服の裾を引く。玄関まで小走りに駆け、扉を飽けて、外へ出た。未来がドアスコープからのぞけないように、うしろ手に扉を押さえ、後頭部をドアスコープの位置に押しつける。
「ほら、腫れも引いてるし、美人だろ?」
 ぐいっと髪を引っ張られて、尊は目の前の男達へ顔を向けた。
「寂しくて泣いてた?」
 うしろから扉を押す力を感じた。男の一人が、尊の頬をなでてくる。
「今は、人がいるから」
 じゃあ、その人も混ぜたらいいだろ、と言われ、激しく首を横に振る。
「橋口君だから」
「誰それ」
 首を傾げている男達を見て、尊は彼らが未来の在籍している芸大生ではないのだと知った。
「中嶋君の……友達」
 一瞬、考えてからこたえた。すると、彼らは笑った。
「じゃあ、俺らの仲間じゃん」
「早く中でやろう」
 扉の前から引き離されそうになり、尊は押し殺した声で告げる。
「あとで何でもするから、今だけは、お願いだから」
 もういいかな、と手を伸ばすと、いつもまだだと払われる。目の前にある光へ近づこうとしたら、永遠に光が見えないように目隠しされる。いつもそうだった。
「尊さん!」
 背中越しに未来の声が聞こえる。男の一人が震えている尊の太股をゆっくりとなでた。指先が内側へ滑り込み、彼はぐっと近づいた後、尊の首筋をなめていく。欲望に支配された視線は、尊の中の闇を容易に引き出す。
「尊さん、開けてください!」
 尊はその場に座り込んだ。ひざを抱えて、「もういやだ」とつぶやく。扉の隙間から出てきた未来が、険しい表情で尊の肩を揺すった。
「どういうことですか?」
 揺れる視界が暗転していく。ごめん、と謝っても、彼は許してくれない。もう疲れたという声が響いた。

20 22

main
top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -