あいのうた17 | ナノ





あいのうた17

 靴を脱いで上がった未来は、カーテンを引いた。窓を開け、空気の入れ替えを始める。
「……引っ越そうと思ってるんだ」
 床を見つめて言えば、未来は明るい声で返事をする。
「いいと思います。あ、部屋が見つかるまで、俺んちに来ませんか?」
 尊は未来を見た。暗い雰囲気にならないように、精いっぱいほほ笑んでいる彼を見ると、気をつかわせている、と沈んでしまう。
「橋口君に迷惑かけるようなこと、できない。実家に帰るから、大丈夫」
 肩へ手を置こうとした未来に、思わず目をつむり、体を強張らせた。
「尊さん」
 未来は尊の手を握った。目を開くと、「俺も家を出て暮らそうと考えてたんです。一緒に住みませんか?」と聞かれた。尊は首を横に振る。握られた手を引いても、未来は放してくれない。
「今の尊さんを一人にできません」
 尊はどうすれば未来が諦めてくれるか考え、拒否する言葉を使うからいけないのだと気づいた。
「……検討するから、しばらく一人にしてくれないかな?」
 未来はようやく手を放し、朝食セットを差し入れすると言って、意気込んで部屋を出た。窓際から秋晴れの空を見上げる。尊は携帯電話を取り、管理会社へ連絡を入れた。

 告白した時と同じく、未来は同棲することに対する返事を急かすことはなかった。部屋の契約が来月までということも、両親へ実家に戻ると伝えたことも、未来には話していない。
 尊はいつも通りに喫茶店で遅い朝食兼昼食を済ませた。カウンターの中で動き回る未来へほほ笑みを見せてから、店を出る。今の部屋へ引っ越した時から荷物は少なかった。今月末にすべての荷物を実家へ送り、来月初めに管理会社へ部屋を引き渡す。黙って彼の前から消えることに罪悪感はなかった。
 郵便受けから広告を抜き、尊はポケットから鍵を取り出す。扉の前に中嶋を見つけて、鍵が手から滑り落ちた。煙草を吸っていた中嶋は、吸殻を足元へ投げ捨て、わざとらしい動作で踏みつける。
「おかえりー、渡辺さん。早く開けて」
 中嶋以外にはいない。踵を返して全力で走れば逃げられる。そう思うのに、尊の足はまるでそこに埋まっているかのように動かなかった。軽薄な笑みを浮かべ、中嶋が近づいてくる。彼は尊の足元に落ちている鍵を拾い上げて、右腕を肩へ回してきた。
「感動の再会で固まってんの?」
 耳元で笑われて、体が震え出す。中嶋は鍵を尊の手に握らせ、人形を操るように扉を開けさせる。すっと近づいた顔に目を閉じると、左の頬を舌がなめた。
「何かさ、未来から聞いたけど」
 部屋に押し込まれ、扉の鍵をかける音を聞く。尊はそのまま四つ這いになり、靴も脱がずにトイレの中へ逃げ込もうとした。
「っひ、あ」
 足を引っ張られ、靴を脱がされる。
「同棲すんの?」
 中嶋の声は怒りをはらんでいた。尊は振り返り、必死に首を横に振る。大きな手が尊の口を押さえた。中嶋は空いている手を器用に下着の中へ入れた。
「ぅう、ん、ン、う」
 尊の瞳から涙があふれた。また犯される、嫌だ、と意識が叫ぶ。だが、手足は動かない。抵抗した後の暴力が怖くて、自分が情けなくて、涙を流すことでしか意思表示ができない。
「っま、いや、あわな、かえる、も、きえる、きえるからっ」
 うつ伏せにされ、頭を押さえられた時、尊はそう叫んだ。空気にさらされた臀部に、中嶋の指が滑る。
「その約束、忘れないようにしないとな」
 中嶋は笑って、まだ十分に慣らしていないアナルへ、彼自身の熱を押し込んできた。悲鳴を上げる前に、手が伸びてきて、口をふさがれる。彼は鼻のあたりまで押さえた。息が苦しい。尊は彼の手に触れたが、力で敵うはずもなかった。意識が飛ぶ寸前になると、彼は手を放して、尊がせき込むとまた口をふさいでくる。
 息も絶え絶えになっている尊の、「どうして」という疑問を聞いた中嶋は、「未来に好きだって言ったら」と強く髪を引っ張った。

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