あいのうた14 | ナノ





あいのうた14

 中嶋が体を動かしながら、「やっぱりな」と嘲笑する。
「誰だよ、ミツヒコって。こうされることの快感、知ってるくせに、未来のこと傷つけやがって」
 尊は上下に揺れる視界の中で、恋人の声を聞いた。あれだけ彼のことを拒否したのに、今、中嶋のことを受け入れている。そのことを責める声が響く。ひたすら謝罪していると、絶頂を迎えた中嶋がコンドームを外し、尊の腹の上に投げ捨てた。彼は携帯電話を操作する。
「あいつ、喫茶店でバイトするようになってから、あんたのことばっかしゃべってさ、すっげームカついた。なぁ、さっきからずっと謝ってるけど、俺、謝罪なんかいらないから」
 鍵をかけていない扉が開き、複数の足音と声が聞こえる。尊が恐怖から起き上がろうとすると、中嶋の足が肩を蹴り、そのまま床へ押さえつけた。見上げた先に知らない男が三人、のぞき込むようにこちらを見ている。
「けっこう美人だな」
 喉の奥から熱いものが嗚咽となってあふれた。尊は今度こそ手足を動かして抵抗を始める。脱がされていたTシャツで手首を拘束された。言葉になっていなかったうなり声が近くにあった上着にかき消されていく。男達の手が伸びた時、尊は完全に自我を失った。心の中で、どうして、と叫んでいると、尊の様子に気づいた男が中嶋へ言った。
「……まわされたことあるな」
 中嶋はその言葉に笑った。
「じゃあ、ちょうどいい。未来の前から消えない限り、こいつらがここに来て、あんたのことを楽しませる」
 尊の瞳からあふれていく涙を見て、中嶋は嬉しそうだった。配慮もなく指先が油にまみれたアナルをいじる。尊は、「う、う」と短い嗚咽を漏らした。あの時と同じだ。目隠しはなかったが、何も見えなくなる。
 男達は尊の恐怖心に構うことなく、順番にアナルを犯した。複数の気配に中嶋を受け入れた時以上に、尊の心は深い傷を負っていく。男の手が荒々しく尊のペニスを擦り、尊自身も何度か絶頂を迎えた。

 涙が枯れる頃には、外が明るくなっていく。体も顔も痛い。尊は見慣れた天井を見つめていた。両手はまだTシャツが引っかかり、自由が利かない。乾いている唾液や精液が気持ち悪い。吐き気を催しても、何も食べていないため、胃液しか上がってこなかった。
 頭痛に目を閉じる。尊はしばらく目を閉じて、何も考えないようにした。だが、すぐに目を開き、うなりながら、Tシャツの拘束を外す。テーブルの上にあったピルケースから、睡眠導入剤を複数錠、取り出した。口の中に入れて、体を引きずるようにして、冷蔵庫から麦茶を取る。
 パソコン台の上に置いていた小箱が消えている。あのピアスは中嶋が持ち去ったのだろう。自分にはふさわしくない。好意を告げられて舞い上がっていた。恋なんてできる立場ではなかったのに、もう一度やり直せると信じた。尊は風呂場へと向かおうとして、その場に倒れ込む。頭痛がひどくなり、口元を押さえた。指先の間から唾液があふれる。
 床の上に全裸で倒れた尊は、ダークブラウンの床を見つめた。体の震えは寒さからだった。六時間後には朝食セットを食べに喫茶店へ顔を出さなければならない。いつも通りの自分を見せて、それから田舎へ帰ろうと思った。もう一人で立ち直ることができない。枯れたと思っていた涙が、床を濡らした。

 体中が温かい。だが、腫れている頬やまぶたは冷たくて気持ちいい。少し体を動かすと、自分が湯船の中にいることが分かった。湯船の縁に首が当たるはずだが、柔らかい手がそれを阻んでいた。手、と気づくと、自分の右手を握る手にも気づき、目を開く。一気に体を起こす。顔から濡れタオルが落ちた。
「っ、や」
 寄り添うように湯船の外側に衣服を着たまま座っていた未来が、涙を流しながら、こちらを見つめている。すぐに彼だと分からず、尊は体を滑らせるように湯の中に沈んだ。
「渡辺さん!」
 未来がすぐに引き上げてくれる。名前を呼ばれても、尊はパニックを起こし、「やめて」と叫び続けた。
「渡辺さん、俺、未来です。もう大丈夫だから、落ち着いてください」
 未来の声はだんだんと涙声になり、尊の心を暗くさせる。給湯スイッチの時間は二十二時を表示していた。すでに昨日の出来事から丸一日が経過している。思い出しただけで、体が震えた。
「渡辺さん……」
 未来は自分の身に何があったのか、察しているはずだ。自分以上に傷ついている未来を見て、尊は視線を落したまま苦笑する。
「ごめん、俺、また倒れてた?」
 うな垂れた未来は嗚咽を漏らした。誰がこんなことをしたんですか、とまっすぐに聞いてくる。恋人と重なった。彼も最初は自分のために憤怒してくれた。それに甘えて、怖かったと泣いた結果、どうなったか、十分過ぎるほど学んでいる。尊は何でもないことみたいに言った。
「知らない人達に襲われたんだ。でも、こんなこと、初めてじゃない。俺、橋口君が思うほどきれいでも優しくもないから」

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