あいのうた13 | ナノ





あいのうた13

 クライアント宛メールにできあがった翻訳のドキュメントを添付して送信する。尊は大きく伸びをした後、テーブルの上にある携帯電話を確認した。この時間帯に未来からメールがなければ、今日は来ないということだ。冷蔵庫の中を見て、カップラーメンとヨーグルトでも食べようと決める。最近の手抜きぶりには自分でも呆れているが、未来からの差し入れがあると思うと、つい自炊をさぼってしまう。
 流しの下を開いて、袋の中からラーメンをあさっていると、インターホンが鳴った。訪ねてくるのは未来くらいしかいない。差し入れに少しだけ期待しながら、ドアスコープをのぞく。知らない青年が立っており、一瞬、大きく身を引いた。だが、よくよく見れば、彼は十日ほど前に紹介された中嶋という未来の友達だった。
 どうして彼が訪ねてきたのか疑問に思いながらも、もしかしたら、未来に何かあったのかもしれないと、尊は扉を開ける。
「こんばんは。俺のこと、覚えてますか?」
 中嶋が小さく笑みを浮かべる。その笑みから、未来に何かあったわけではないと知れた。
「あ、はい。中嶋さん、ですよね?」
「はい。中に入れてもらえませんか?」
 断る理由はない。だが、尊は中に入れたくなかった。まだ中嶋のことをよく知らない。未来の友達だから大丈夫だと思う反面、抵抗があった。迷っていると、中嶋が扉を引いて、中へと強引に入ってくる。
「え、ちょっと」
 困ります、と言おうとした。言えなかったのは、中嶋が尊のことを突き飛ばしたからだ。まさかそんなことをされると思わず、思いきりうしろに倒れた。何が起きたのか分からなくなり、胸ぐらをつかまれ、引きずられ、されるがままになった。
「なにすっ」
 尊の声は震えていた。乱暴に扱われる、それだけで最近はすっかり忘れていた恐怖を思い出す。中嶋はいきなり尊の左頬を殴った。容赦ない殴打は、起き上がりかけた尊の体を再度、床へと縛りつける。驚きと恐怖から、悲鳴さえ上げられなかった。
 床に手をついたものの、体が動かない。鼓動が速くなるのを感じた。頭が真っ白になっていく。床を見つめている尊の髪を、中嶋がつかんだ。
「あんたさ、未来に男同士は気持ち悪いって言ったんだろ?」
 初対面の時に睨まれた気がした。あの時と同じように中嶋がこちらを睥睨している。もう一度、頬を殴られた。口の中に血の味が広がっていく。尊はくちびるを噛み締めたが、視界がにじんでいった。彼はカーテンの閉まっている窓辺に寄り、開いていた窓を閉める。立ち上がって玄関へ向かいたかった。床に尻を着いた状態からようやく四つ這いになったところで、彼が臀部を蹴り、そのまま尊の体の上に乗った。
「っや、いやだ、はなっ」
 肩をつかまれ、仰向けにされる。中嶋は笑っていた。
「同族嫌悪ってやつ?」
 そう言われて、体を強張らせた尊に中嶋は納得したように深く頷き、Tシャツを乱暴に脱がせようとした。尊が抵抗すると、右手をジーンズの上から股間に当ててくる。
「未来に話しかけられた時のあんたの顔見て、すぐ分かった」
 ぐっと顔を近づけた中嶋が左の耳元でささやく。
「こいつは男に突っ込まれて喜ぶタイプだって」
 見開いた尊の瞳から涙があふれる。同族嫌悪ではない、と言いたかった。あれは、未来をむやみに傷つけたくなくて言った言葉だ。もちろん、結果的にはその言葉で傷つけたのだから、責められても仕方ない。未来は中嶋にそのことを話した。今、自分の上にまたがり、体をまさぐる男は未来の友達だ。よみがえる過去から必死に目をそむけ、尊は言葉を探した。
「っ、だ、だめだ、こんな、こと、彼が、悲しむ……」
 尊は両手で視界を覆った。涙がどんどんあふれてくる。
「笑わせんな。俺にレイプされたって言えんの? 言ってみろよ」
 抵抗しなければ、と思った。だが、手を縛られたら、目隠しされたら、また殴られたら、と考えてしまう。体は震えるだけで、尊は何一つできない。ただ暗闇の中で、開くことのない扉を叩き続けるのと似ていた。うしろから危険が迫っているのに、扉には鍵がかかっていて開けられない。
「三十にもなって定職にも就いてないくせに、どうせ、未来の金、目当てなんだろ。ピアスもねだって、売ったか? あいつのデザインならそこそこの値がついただろ?」
 中嶋の言葉は何一つ理解できなかった。彼がキッチンからサラダ油を取ってきたことにも気づかず、尊はハウリングしていく恋人の声を聞いていた。大きな痛みとともに、アナルを無理やり犯された瞬間、尊は恋人の名前を呼び、泣きながら謝罪の言葉を口にした。

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