three of us5 | ナノ





three of us5

 北口にあるロッカーから鞄を取り出した司を連れて、祐はそのまま若者向けの店へ足を運ぶ。服はいらないと言うが、真斗のバーで働くなら、私服にも気をつかったほうがいいと返すと、司はそれ以上、何も言わなかった。
 店員のアドバイスを受けながら数着購入した後は、一度部屋へ帰り、近くのスーパーへ出かけた。
「やっぱりそういうのが多いんですか?」
 惣菜のパックを手にしていると、カゴを持った司が遠慮がちに聞いてくる。
「俺でよければ、作ります」
「ほんと? 助かる。俺も真斗もそんなに得意じゃなくてさ」
 何が食べたいかと聞かれて、嫌いなものはないとこたえた。司が作りやすいものでいい。誰かに料理してもらうなんて、久しぶりだった。
 牛乳が入った重い袋は祐が持つ。家に帰るとちょうどいい時間で、司はすぐに夕飯の用意を始めてくれた。材料から想像できる料理はハンバーグやオムレツだった。だが、できあがってきた料理はラザニアで、祐は驚いた。
「料理、好きなのか?」
 スーパーにはバゲットなんて洒落たものは置いていない。ロールパンをオーブンへ入れた司は、深皿に入ったラザニアを二人分、テーブルへ運んだ。
「はい」
 司は嬉しそうに頷き、コーンサラダのボウルを置く。
「実家がカフェで、洋風の料理を出してるんです」
「そうか」
 実家は近いのか聞こうとしてやめた。部屋を追い出されて、友達を頼ってきたということは、実家が遠いか、帰れない状況にあるということだ。
「ビール、飲むか?」
 冷蔵庫で冷やしていた缶ビールを取り出し、ビールグラスへ注いでやる。温まったロールパンを皿に乗せ、運んだ後、今度は司がビールを注いでくれた。
「いただきます」
 乾杯をして、ラザニアにフォークを入れる。祐は息を吹きかけて、少し冷ましてから口へ運んだ。見た目を裏切らないおいしさだ。
「おいしい」
「ありがとうございます」
 向かいで笑った司は上品に食べている。真斗がいたら、もっと場を盛り上げることができるだろう。祐は購入していた缶ビールをすべて空けた。食事の後も司が洗い物をしてくれる。
「俺、部屋にいるけど、何かあったら遠慮なく言ってくれ」
「はい」
 休みの日はほとんど部屋でゲームをしている。祐はベッドへ寝転んで、キーボードを操作した。司の素性は分からないものの、おいしい料理を食べさせてもらった後ではさらに警戒心も緩む。
 休みの二日目も同じように過ごし、出勤日の朝、いつもの時間に起きた祐は、すでに起きていた司にあいさつをする。内心、驚いたが、彼は朝食を作っていた。家を出る時に、「いってらっしゃい」と声をかけられて、変な気分になる。真斗とは生活時間が違うため、見送られることはなかった。
「……いってきます」
 家を出た後、会社まで歩きながら、帰宅した時のことを考え始めた。司は昨日も夕飯を用意してくれた。家に帰ってきて、温かい食事があるのは嬉しい。祐は上機嫌で仕事をこなし、いつもなら何とも思わない残業を避け、定時で打刻した。
 祐はコールセンターの品質管理部で働いている。直接、顧客と話すわけではなく、顧客と話しているオペレーターのモチベーションを向上させるために存在する部署だ。商品開発部の主幹部とも連携しており、新商品が出た後はさらに忙しくなる。

 鍵を開けて中へ入ると、司の運動靴があった。
「ただいま」
 リビングダイニングから廊下へ出てきた司が、愛想よく笑った。
「おかえりなさい」
 司の前を通り過ぎて、まずは自分の部屋へ向かう。一瞬だけテーブルへ視線をやると、箸が並んでいた。やっぱり用意してくれた、と思わずほほ笑む。
「真斗さんのところで、週二日、働けることになりました」
 チャプチェとタコとワカメの酢の物、タマネギのみそ汁が並んだテーブルをはさみ、司が缶ビールを開けて、グラスへ注いでくれた。
「よかったな」
 乾杯した後、テレビをつけて、夕飯を食べる。部屋のことを聞こうと思ったが、それは真斗から聞くことにした。実際、週二日のアルバイトで生計を立てるのは厳しいはずだ。すでに真斗と体の関係があり、二人が付き合っているなら、自分が出てもいいかもしれない、と祐は考えた。

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