three of us4 | ナノ





three of us4

 真斗の頼みというのは、休みの間、司の面倒を見ていて欲しいというものだった。一度、部屋を出て、財布を取ってきた彼は、パソコンの横に一万円札を三枚、置いた。『rouge』が軌道に乗るまでは、家賃も半々ではなく、祐が多めに出していたが、今は真斗のほうが稼いでいる。
 それでも、『rouge』開店は祐の協力なしにはできなかった、と今でも、部屋に関する権限は祐へあずけてくれた。そのため、自分の承諾なしに誰かを家に上げることはない。よほど司を気に入ったのだろう。
 シャワーを浴びている司、彼の服と必要な物を買いにいって欲しいと言う真斗、今朝会ったばかりだというのに、どうやら真斗は彼を抱いたらしい。
「……手が早いな」
 真斗は高校生の頃から、男女問わず抱いている。苦笑して彼を見上げると、彼はくちびるを緩めた。
「知ってるだろ、俺、ああいう小さいのに弱いんだ」
 それにしても、今回はイレギュラーだと思った。『rouge』の共同オーナーである幸継(ユキツグ)が、最近、片思いをしていた相手とうまくいった話を聞いていたが、それが関係しているのか、と考える。幸継も真斗と同じく、複数の相手と一夜限りで遊ぶタイプだった。
 祐も三十路の時に、そろそろ身を固めたいと考えていた。今は結婚したいと思わなくなっているが、自分と同じように真斗もそろそろ一人に絞ろうとしているのかもしれない。いずれにしても、真斗の頼みは断れないため、祐は金を受け取った。
「悪いな。紘一(コウイチ)、分かる?」
「あぁ」
 『rouge』のバイトの一人だ。
「あいつがちょうど、シフト数、減らして欲しいって言ってたから、幸継とバイト募集する話してたんだ。まだどうするか、どうなるか、分かんないけど、それまでいいだろ?」
 この家に司を置いてもいいかと聞かれ、祐は頷いた。
「ありがとう、兄貴」
 こういう時だけは、「兄貴」と呼ぶ真斗に、祐は小さく息を吐く。親同士が再婚したのは、祐が高校二年、真斗が中学二年の時だ。外見だけでは真斗のほうが兄に見えるが、真斗は祐の内心をよく理解しており、ここぞという時は必ず、「兄貴」と呼んだ。ふだんはわがままで居丈高な部分があるため、甘えてきたり、頼ってきたりされると余計、くすぐったい気持にさせられる。
 悪い意味ではないが、真斗は人をその気にさせるのがうまいのだろう。一緒に住んでいても、多少、傲慢な態度を取られても、苦にならない。パソコンの電源を落とした祐は、素早く着替えて、リビングダイニングへ向かった。

 まだ出勤するには早い時間だったが、幸継と連絡が取れたため、真斗はいつもより早めに行くと言って、家を出た。出る時に、司の髪触れ、軽くキスをしていた。自分の目の前でよくそんなことができるものだと感心していると、振り返った司が真っ赤になって、謝罪してくる。
「いや、別に謝ることでもないだろ。俺達も暗くなる前に買い物、行くか? 服とか見にいかないと。それしかないんだろう?」
 司は当たり前だが、同じ服を着ていた。
「あ、いちおう、駅のロッカーに荷物、入れてて、その中に服、あるんです」
 用意をして玄関先で靴を履いている時、司の服から煙草のにおいがした。祐は吸わないが、真斗は吸っている。だが、この家の中ではベランダか彼自身の部屋でしか吸わない。
「煙草、吸ってる?」
 予想通り、司は首を横に振った。司の部屋にいたせいか、と特に気に留めることもなく、祐は鍵をかける。
「祐さん、俺、なるべく早く出ます。迷惑かけて、すみません」
 エレベーターの中でそう言った司に、祐は内心、なるほど、と納得した。これまで真斗が遊んできたタイプとまったく違うタイプだ。
「別に気にしなくていい。この家は真斗の部屋でもある。家賃は半々で、光熱費や食費も折半してる。あいつが司君をしばらくここに置きたいと言ったんだ。俺には反対する理由がない」
 エントランスを抜けて、外へ出た。夕陽が沈めば寒くなるだろう。腕時計を見ると、まだ十六時半だ。とりあえず駅のロッカーへ向かう。
「荷物ってどれくらい?」
 重たいと面倒だと思いつつ、確認すると、「鞄だけです」と返ってくる。
「鞄だけ?」
「はい。退去させられる寸前に準備して、家具とか全部置いてきたんです。服っていってもそんなに持ってなくて……」
 司はそこで言い淀んだ。話したくないこともあるだろうと思い、祐は話題を変えた。

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