three of us3 | ナノ





three of us3

 テレビを見ながら、司のことを観察する。彼は髪をブラウンに染めていて、根元の黒さが少し目立っている。大きな瞳と先ほど笑った時に見えたえくぼのためか、愛らしい印象を持った。ただし、今は目の下のくまのせいで、疲れているように見える。
「家、近く?」
 当たり障りのないことを聞こうとしたが、どうやらいきなり地雷から踏んだらしい。口を動かしていた司の動きが止まる。
「あー、……真斗は『rouge』で知り合ったのか?」
 真斗がオーナーであるショットバー『rouge』でしか、知り合う機会などほとんどないだろう。この質問なら大丈夫だと思って聞いたが、司は、「るーじゅ?」と首を傾げる。
「真斗のバーの名前」
 祐がそう言うと、司は祐へ向き直った。
「あの、すみません。俺、真斗さんとは下で会ったんです」
「下?」
「このマンションの下です」
「あぁ」
 そうか、と思いつつ、それはどういうことだろう、と祐は考えた。
「と、友達を訪ねてきたんだけど、友達、引っ越しちゃってて、困ってたら、真斗さんが上がってけって、ここに……」
 自分への断りもなく、知らない人間を部屋へ上げたことに対して、少しむかついたものの、祐は顔に出すことはなかった。真斗は初対面の人間に優しくするような男ではないからだ。その彼が司をここへ入れたのだから、事情があるに違いない。
「あぁ」
 詳しく聞くのは失礼だと思い、祐は立ち上がる。
「俺、部屋にいるから、何かあったら、真斗、起こして」
 リビングダイニングには盗まれて困るものもなく、見た目で判断したことにはなるが、司が何か悪事を働くようにも見えず、祐は自分の部屋へ戻ることにした。
「あ、祐さん」
 真斗や彼の友達以外に名前で呼ばれることがほとんどないため、祐は変な感じがした。
「朝ごはん、ありがとうございました」
 礼儀正しく頭を下げた司に、「もう昼だけどな」と苦笑する。部屋に入った後、祐はパソコンを立ち上げた。
 しばらくゲームをして遊んでいると、ノックの音が響く。時計を見ると、十五時を回っていた。
「どうぞ」
 互いのプライベートを守るため、返事が聞こえてからしか扉を開けないというルールがある。真斗が、「入っていい?」と聞きながら、顔を出した。
「あぁ」
 入ってくるなり、真斗は両ひざを床につける。
「祐、ごめん、ほんと、ごめん」
 ひざをついた後、両手を合わせて謝る真斗に、祐は苦笑いして、「いいって、別に」と返した。
「悪い子じゃなさそうだし……」
 まだリビングダイニングにいるのかと思い、少しだけ、扉のほうへ視線を移した。その視線の先を見た真斗が、寝癖で跳ねている明るいブラウンの髪をいじりながら、「司は今、シャワー浴びてる」と言った。
「メシ食わせてくれたんだって? すごい喜んでた」
「そりゃ、腹がグーグー鳴いてるの聞いたら、何か出さないわけにはいかないだろ。あの子、拾ったのか?」
 真斗が頷くのを見てから、「珍しいな」と言葉を吐く。
「迷ったけどな、事情聞いたら、放っておけなくなった」
「事情?」
 もちろん事情があることは分かっている。真斗がここへ帰る時間は、たいてい六時から七時の間だ。そんな時間に友達を訪ねてくることも、そのまま自分の家へ帰らないことも、事情があるからに他ならない。
「半年前、バイト先が潰れて、貯金を崩しながら、新しいバイト先、探そうとしてたら、恋人が貯金を使い果たしたらしくてさ。で、家賃が払えなくなって、帰る場所がない。恋人も金だけ使って逃げたみたいで、仕方なく、ここに住んでた友達を頼ったらしい」
 その友達も引っ越し済で、司は途方に暮れていた。
「でさ……」
 真斗はすでに立ち上がっている。百八十を超える長身と小学校から続けていた空手で鍛えた体が羨ましい。いつもは意思の強さを表す瞳が、今は甘えるように光った。祐はこの義弟からの頼み事を断ることができない。一人っ子だったため、突然できた弟の存在は嬉しかった。
 外見は真斗のほうが兄のようでも、中身はいまだに子どもっぽい彼に頼られると、どんなことでも頷いてしまう。

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