three of us2 | ナノ





three of us2

 昼頃に起き出した祐は、眠っているであろう真斗を起こさない癖がついていた。大きな足音を立てたり、テレビの音量を上げたりせず、静かに遅めの朝食を用意する。トースターでパンを焼き、マーガリンを塗って、コーヒーとともにローテーブルへ移動した。
 真斗がソファを置きたいと言っていたが、今月は休みが合わず、その話は頓挫している。昼の番組を見ながら、口を動かしていると、人の気配を感じた。真斗だろうと思って、じゅうたんへ手をついて体をひねった。
「おはよ」
 真斗の出勤時間までだいぶあるが、彼はたまに早く起きてくる。視線を上げて、真斗ではないことに気づき、驚いた。
「あ、おはようございます」
 頭を下げた相手はもちろん知らない人間だった。真斗のショットバーでアルバイトをしている子でもない。何より、驚いたのは、彼がここへ誰かを連れ込んだことだ。これまで何度か彼の友達を泊めたことはある。だが、必ず事前に祐の了承を得てからだった。
 あいさつを返してきた青年は、「トイレ、借りてもいいですか?」と小さな声で聞いた。祐は頷き、トイレのほうへ視線を向ける。彼はまた軽く頭を下げて、トイレへ入った。
 部屋から真斗が出てこないということは、彼は眠っているに違いない。事前の連絡はなかったが、彼の判断で部屋へ連れてきたのだから、今、トイレに入っている青年に危険がないことは理解できた。祐はパンを食べ終え、コーヒーを飲み干す。キッチンへ洗い物を持っていった。
「ありがとうございました」
 青年は祐よりも小さく、不健康に見えるほどやせていた。寝不足なのか、目の下にはくまがある。
「真斗の友達?」
 それにしては若い、と思いながら尋ねる。
「あ、いえ、あ、はい」
 あいまいなこたえを聞きながら、面倒くさいと思った。とりあえず自己紹介だけして、部屋へ戻る。
「俺、真斗の兄で同居してる祐。それじゃ」
 義兄ではあるが、いちいち説明することが煩わしいため、祐はいつも兄だと名乗っていた。扉を閉めた後、テレビをつけたままだと気づき、再度、リビングダイニングへ出た。先ほどの青年が立ったままテレビを見ている。
「見るんだったら座れば?」
 声をかけると、彼が振り返った。
「あ、すみません。俺……」
 おろおろした様子の彼に、祐は自分だけ自己紹介して、彼の名前を聞いていないことに思い至る。
「名前は?」
 彼は大きな瞳をさらに大きくして、それから、小さな声で、「百川司(モモカワツカサ)です」と名乗った。
「座ったら? 真斗、まだ寝てるんだろ?」
 司が頷き、祐はコーヒーサーバーに残っていたコーヒーをいれた。
「はい」
 おそらく十歳以上は下だろうと予想しながら、祐は司にコーヒーを差し出した。ローテーブルへ置いてやり、彼に再度、座るように促す。普段から会社と家以外で誰かと話す機会はない。コミュニケーションを取るのも面倒になってきたこの頃だが、真斗が部屋に入れた人間なら、コーヒーくらいは出しておこうと思った。礼を言った司は、かしこまりながら座った。
 世間話くらいできるはずだ。だが、言葉が出てこない。ここで部屋へ戻ったら、冷たい人間みたいだから、と座ったものの、何を話せばいいのかさっぱり分からない。真斗を起こしたほうがいいのかもしれないと思い始めた時、司の腹の虫が鳴いた。
 耳まで赤くしてうつむく司を見て、祐は思わず笑った。
「腹、減ってたんだ? パンしかないけど、いい?」
「あ、えと、いいです。あ、いらないっていう意味の、いいです」
 司もたいがい口下手そうだと思いつつ、祐はカウンターキッチンの上にあるカゴからパンを取り出した。トースターへ放り込み、冷蔵庫からハムとタマゴを取り出す。ハムエッグ程度なら、あまり料理をしない祐にでも簡単にできる。皿に並べて、「どうぞ」と言えば、司は笑みを浮かべて礼を言った。

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