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three of us1

 ネックピースの先につながった社員証をかざして業務室から出た後、高村祐(タカムラタスク)はエレベーターホールへ向かった。本来であれば、男性社員であっても仕事を終えた後はロッカールームに置いてある私物を取りにいく。だが、祐が会社に持参しているものは財布と携帯電話以外、特にない。
 三十階建ての高層ビルのちょうど真ん中あたり、十四階に、祐の勤務している会社がある。そこから一気に一階まで降りて、外へと向かった。もう少し寒くなればコートが必要だが、今の季節はスーツの上着だけで十分だ。暦上は秋になったものの、まだ昼の間は汗ばむ陽気が続いていた。
 祐の住んでいるマンションは、駅前の中心地から徒歩で二十分程度のところにある。健康志向ではないが、祐は何となく毎日歩きで通勤していた。駅を超えた北へ歩きながら、ビル街を抜けると、マンションが見えてくる。
 夕飯をどうするか考えた。祐は独身だが、部屋には同居人がいる。生活の時間帯が異なるため、めったに同じテーブルへつくことはないものの、たいてい彼の分も冷蔵庫へ入れていた。祐の夕食は彼の朝食になる。
 祐はマンションを通り過ぎて五百メートルほど進んだ場所にあるスーパーへ寄った。二十四時間営業のスーパーには、独身者にとってありがたい惣菜コーナーが充実している。祐自身、あまり料理はしないため、このスーパーで購入して済ませることが多い。
 適当に二パック選んだ後、缶ビールを切らしていたことを思い出して、六缶パックを手にした。同居人の彼は六缶パックを買うと怒るが、たとえ五百メートルの距離でも二十四缶ケースを持つのは嫌だった。
 今年で三十五歳になった祐は、まだ二十代後半に間違われることもあるほど童顔だった。昔から中性的な顔や体を気にしており、今でも時おり、ジムへ通っては体を鍛えている。だが、男らしい体を手に入れたいという気持ちと、重たい荷物を持つという行動は祐の中で直結しない。重いものは同居人である真斗(マコト)が運べばいいと思った。
 真斗は三歳下の三十二歳で、血のつながりはないものの一つ屋根の下で育った義理の弟だった。親同士の再婚がきっかけだったが、初対面の時から身長は彼のほうが高く、態度も大きかった。
 ただ仲は悪くはなく、今も一緒に部屋を借りて暮らすくらいには気が合う。真斗は傲慢なところはあるが、身内や友達には優しい。高校を卒業した後、アルバイトを掛け持ちしながら貯めた金で、仲のいい友達とショットバーを経営していた。
 祐は電気をつけて、リビングダイニングのテーブルへ買物袋を置いた。ビールだけ冷蔵庫へ入れて、寝室で着替えを済ませる。二人暮らしを始めたのは、祐が今の会社に就職してからだ。いつか自分のバーを開きたいから、なるべく貯金したいと頼まれて、一緒に住み始めた。それまでは狭いワンルームに住んでいたが、今は2LDKの部屋で暮らしている。
 共有空間になるリビングダイニングとカウンターキッチン、トイレやバスルーム以外にちゃんと一人になることができる部屋がある。祐はクローゼットの中にあるタンスから部屋着を取り出した。
 真斗はよくカウンターテーブルで食事をしているが、祐はテレビを見ながら食事するため、リビングダイニングに置かれているローテーブルの上に惣菜を並べた。保温になっている炊飯器から白飯をよそう。見たい番組があるわけではないため、適当にチャンネルを変えた。
 両親は二人ともなかなか結婚しないと嘆いている。真斗はもてるようで、時おり、朝の帰宅もなく、相手の家からバーへ出勤していることもあるが、祐はここ五年ほど恋愛じたいしていない。最初は休日にすることもなく、出かけても一人であることに違和感があったものの、今や一人でいるほうが気楽だと思うようになった。
 祐の勤めている会社は週末出勤もあるため、平日の休みも発生する。ショットバーの定休日である月曜が休みの時は、たまに真斗と買い物へ出かけた。彼と一緒であれば気をつかわずに済む。
 会社では飲み会に参加することもあるが、祐は真斗と異なり、あまり人と話すことに慣れていない。最近、といっても半年以上前になるが、同じ部署の後輩から告白された。付き合ってみようかな、と思ったのに、デートをすることを想像したら、面倒だな、と思ってしまい、結局、断った。
 その話を真斗にしたら、彼は大笑いしていた。デートで面倒なんて思っていたら、セックスまで持ち込んだ時、どうするんだと言われた。祐はその時、その状況を想像して、一人で抜くほうが楽かもしれないと返した。彼はさらに笑っていたが、今の生活が馴染み過ぎて、たまに感じる寂しさすら紛らわすことができるようになっていた。
 明日と明後日が二連休のため、久しぶりにゆっくりしようと、祐は時間をかけて風呂に入り、だらだらとパソコンでゲームをしたり、マンガを読んだりした。
 仕事がある時は七時半には起きているが、休みの日は寝過ぎて腰が痛くなるまで起きない。真斗もそれを知っているため、あえて起こしにくることはなかった。

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