spleen番外編18 | ナノ





spleen 番外編18(水川×里塚)

 リングを交換して、互いの薬指へはめ合った。キスをされ、ベッドへ背中をつける。初めてが無理やりだったために、里塚はあまり感じることができなくなっていた。心が伴わないセックスは、スポーツと同じだと聞いたことがある。水川との行為も最初から感じることはなかった。
「和葉」
 手を握られ、首筋を熱い舌が這う。水川は好きでいることを強要しなかった。彼と同じ気持ちを返さなくても、いつも無条件で自分を愛してくれた。水川の長い指先が、ゆっくりとアナルを解していく。十年以上、彼と体を重ねてきた。体も心もすでに彼のものだった。ただ、それを口にしたことがなかった。
 里塚はつながっている左手に光るリングを見た。水川が気づいて、リングにキスをする。
「貴臣、僕も愛してる」
 初めて言った。口にするまでとてつもない時間がかかった。それだけの間、水川は待っていてくれた。胸の上に熱い涙が落ちる。彼は口元を押さえて、涙を流していた。泣きながら、彼が体をつなげようとする。里塚はそれにこたえて、腰を動かした。
 すでに涙を拭った水川が、いつもより激しく突き上げてくる。里塚はあまり声を出すほうではないが、さすがに声が漏れた。そのくちびるにキスをして、口内へ舌を入れた彼は、器用に舌を絡ませながら、里塚の感じるところを擦り上げてくる。
 絶頂感に体をしならせると、水川も短い吐息を繰り返しながら、中へ出した。すぐには抜かずにそのまま抱き締められる。室内は暖房が効いており、二人して汗ばんでいた。少し呼吸が整ったところで、彼が何度もキスをしてくる。
「ずっと苦しかった」
 水川の唐突な告白に耳を澄ませた。 
「あの時にまで戻りたかった。俺が、もっと早く気づいてたら、おまえは傷つかなかったかもしれない。今、どれだけ多くの生徒をサポートしても、それはおまえじゃない」
 間接照明の光で照らされている水川の黒い瞳が、またうるんでいる。
「俺は、空なんかどうでもいい。ただおまえの隣にいたかった。ずっと、おまえと一緒に空を見上げるほうがいいって、思ってた。それは、この先も変わらない」
 里塚は少し頭を上げて、自らくちびるへキスをした。ちゅっと音を立てたキスに、水川は泣きながら笑う。
「待たせて、ごめん」
 水川は大きく首を横に振った。そっとアナルからペニスを抜き、隣へ寝転ぶ。彼は左手を天井に向けた。輝くリングを見て、笑う。里塚も同じようにして、リングを見た。彼の手がぎゅっと指先を握る。
「リング、外すなよ」
「うん。でも……」
「何だ?」
 理事長や一部の教師は、自分達が付き合っていると知っている。だが、冬休み明けからいきなりそろいのリングをしては、やはり驚く人間もいるだろう。
「貴臣のこと好きな生徒達に恨まれそう」
 水川は小さく吹き出す。
「そんなこと言い出したら、おまえを狙ってる生徒達はどうなんだ?」
「いないよ。僕狙いなんて、罰ゲームだ」
「和葉、ケガもない、体調不良でもない生徒が一日にどれくらい来てる?」
 言われてみれば、一日に五人以上はそんな生徒達が保健室へ来ていた。
「でも、それはほら、ガス抜きみたいな感じで、発散してるんだよ」
「……あぁ、そうだな。そういう連中がおまえで違うもんを抜いたり、発散してないことを願うばかりだ」
 里塚は水川の言葉に枕を投げつけた。
「下品」
 水川が笑いながら、体を抱えてくれる。
「風呂、入り直しだなぁ。あーあ、こんなことなら、お好み焼きなんてやめて、もっとロマンチックな料理にすればよかった」
 確かに、と里塚も笑う。
「でも、ロマンチックな料理って何? 僕はシュークリームがあればいいや」
「言うと思った。ちゃんと冷蔵庫に入ってるぞ」 
 リビングを通り抜けた時、泡の消えたビールが見えた。
「あ、待って待って。せめて、乾杯だけはしようよ」
 里塚の言葉に水川が体を下ろしてくれる。すっかり生温くなったビールを手に、二人は乾杯した。
「二人の新しい出発に。愛している、和葉」
 里塚は水川を見つめて、同じように、「愛してる」と返した。左手に光るリングへ視線を落とす。時を経てなお、輝き続けるリングはまるで互いの気持ちのようで、里塚はとても嬉しかった。

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