spleen番外編19 | ナノ





spleen 番外編19(明史)

 いつも志音が先に起きるから、今日こそは、と明史はベッドから抜け出した。まだ眠っている志音を見て、ケータイを探し、寝顔を撮影する。身支度を整えた後、彼がしてくれるように朝食を作ってみた。
 三日後に迫っている大みそかは、若宮家で過ごすことになっている。それまではまだ二人きりで疑似同棲生活を楽しめた。もっとも、学園を卒業したら、このマンションで二人暮らしをすることは決まっている。
 志音は国立大を受験するが、彼が落ちることはまずないと言われていた。将来の夢を聞いたのは、三年に上がってからだ。彼は遺伝子学を学びたいと教えてくれた。明史はまだ具体的に何になりたいか分からず、それでも、兄と同じ大学へ行きたいと考えていた。明史の成績では推薦はされないため、受験することになる。受かるかどうか分からないが、念のため、滑り止めとして少しランクの落ちる私立も受験するつもりだ。
 朝食後から昼まで、昼食後から夜まで、と毎日、一緒に勉強している。息抜きとして簡単に作ることができるケーキのレシピを、母親からもらっていた。見た目は悪く、味も微妙だが、志音は何を作ってもおいしいと言って食べてくれる。
 カウンターの上にあるパネルを見ながら、伸ばしたパン生地にハムとチーズを包んだ。
「あ」
 メールの着信音とともにディスプレイが点滅する。手を拭いた明史は、新着メールを開いた。フェリクスの国で学んでいる創太からだった。彼は三年に進級と同時に、今度は彼自身が交換留学生として外国へと旅立った。そのまま、向こうの大学付属の語学学校へ進み、今年から大学で学んでいると聞いている。
 メールにはフェリクスと一緒に写っている創太の写真があった。明史はその写真をフォトフレームへと飛ばす。
 パン生地をオーブンへ入れた後、冷蔵庫からタマゴを取り出した。小さめの音で音楽を流しながら、明史は上機嫌でスクランブルエッグを作る。焼き上がったパンの粗熱を取っていると、志音が大きな伸びをしながらキッチンへ入ってきた。
「おはよう、志音」
「おはよ。早いな」
 志音は寝起きがよく、すでにぱっちりと開いている目でこちらを見て、頭の上にキスを落とした。
「いいにおい」
「パン、焼いたんだ。すぐ紅茶入れるから、顔、洗ってきて」
 電気ケトルをセットしようと背を向けたら、志音がうしろから抱きついてきた。臀部より少し上あたりに、彼の硬くなっているものが当たっている。
「……志音」
 明史にとっては、セックスは一回すれば、それだけで十分満たされるものだ。もちろん、志音も一回で満たされると言うが、それは精神面の話だった。
「悪い。もう少しだけ抱き締めさせてくれ」
 志音は自分を感じるように抱き締めた後、すぐにバスルームのほうへ向かった。明史だって本当はもっとつながりたいと思っている。だが、体格差からなのか、安堵感のせいなのか、一回すると、明史はどうしても意識を保つことができなくなり、そのまま眠ってしまう。
 このまま志音の性欲を満たすことができなかったら、どうしようと考えた。まだ寝癖を残した状態で出てきた志音に、明史は不安を伝えた。互いのために、思ったことは口に出して言うという決まりを作った。そうすることで、より深く分かり合えると志音は言っていた。
 明史の話を聞いた志音はほほ笑んで、ひざの上に乗せて抱き締めてくれた。
「おまえはもうほんと、マジで可愛過ぎ。セックスの回数なんて気にしなくていい。俺は確かに二回くらいしたいなって思うけど、満たされてないわけじゃねぇって、前も言っただろう?」
「でも、俺、すぐ寝るし、さっきも一人でしてたから、いつか、志音、俺のこといらなくなるんじゃないかって不安になる」
 こんなふうに言うと、まるで志音が一人で抜くことも許さないと言っているみたいに聞こえる。自分がわがままで嫌な人間になったように感じた。志音が額にキスをしながら、背中をなでてくれる。
「分かった。明史が不安になるなら、今度からは一人でしない。つながる前に一回、おまえの前で抜いてから、入れる。そしたら、俺は二回出したことになる」
 明史は志音の胸の中で頷いた。譲歩してくれる優しい志音を見上げると、頬にキスをされた。
「さぁ、明史の作ってくれた朝食、食おう。おまえの手料理、食えるなんて、俺、すげぇ幸せ」
 明史を抱えたまま、テーブルへ移動した志音の頬に、明史はキスを返した。明史は志音のことが好きだ。その中でも、彼の笑った顔がいちばん好きだ。
「俺も幸せ」
 志音に今の気持ちを伝えると、彼は明史の好きな笑みを浮かべて頷いた。

番外編18 番外編20(とある生徒視点)

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